第十六話 妖精の記憶の扉
■ 逃亡の果てに
森の中を駆け抜ける隼人たち。
政府の特殊部隊の気配を背後に感じながら、彼らは必死に逃げていた。
「くそっ、ここまで警戒されていたとは……!」
本田が舌打ちしながら前方を確認する。
「もうすぐ開けた場所に出る! そこから振り切るしかない!」
美咲が息を切らしながらも、端末を操作する。
「待って、前方に建物があるわ!」
「何だと?」
桐生教授が目を細める。
「この場所に、政府の施設以外の建物があるはずがない……」
黒衣の男が先頭を走りながら、静かに言った。
「そこに逃げ込む。下手に森を抜けても、見つかれば終わりだ」
隼人たちは迷わず、その建物へと向かった。
■ 忘れられた小屋
木々に隠れるように建っていたのは、朽ちかけた山小屋だった。
「……ここは?」
隼人が息を整えながら扉を押すと、軋む音とともにドアが開いた。
「とりあえず、ここで身を隠すしかない」
本田が中に入り、周囲を警戒する。
「政府の施設ではなさそうだが……随分と古いな」
■ 手記の内容
隼人たちは小屋の中を慎重に調査していた。桐生教授が古びた書棚を漁り、一冊の手記を取り出す。手書きの文字はかすれかけていたが、まだ読める状態だった。
「これは……かなり古い手記のようだ」
桐生教授がページをめくりながら目を細める。
「政府が残したものじゃないのか?」
本田が腕を組みながら問いかける。
「いや、どうやら個人の記録のようだな。おそらく、かつてこの地で研究を続けていた人物のものだろう」
美咲が手記を手に取り、慎重に読み上げる。
「……『真実を求める者へ』。どうやら、この手記は誰かに向けたメッセージのようね」
「誰かに向けて?」
隼人が眉をひそめる。
「封印研究者の手記かもしれない。政府の手から逃れ、隠れ住んでいた人物が記録を残したのかもしれん」
桐生教授が分析を進める。
「だけど、なぜここに? 研究所と関係があるとは思えないが……」
本田が首をかしげる。
「いや、むしろ政府とは無関係だからこそ、真実を隠すには最適だったのかもしれない」
桐生教授が推測を述べる。
■ ノワールの反応
突然、ノワールが震え始めた。小さな羽がかすかに震えている。
「ノワール、どうした?」
隼人が驚いて彼女を覗き込む。
「……ココ、ナニカ……アル……」
ノワールは不安げに小屋の奥を見つめた。その眼差しは何かを感じ取っているようだった。
「何かを感じるのか?」
桐生教授が慎重に問いかける。
「……ワカラナイ……ダケド……キオク……カモシレナイ……」
ノワールが不安げに呟く。
「記憶?」
美咲が疑問を口にする。
「……トオイ……ズット、トオクニ……ナニカガ……」
ノワールの言葉は途切れ途切れだが、彼女が何かを思い出そうとしていることは明らかだった。
「ノワールの記憶が封じられている……?」
隼人が慎重に尋ねる。
「政府が行っていた研究の影響かもしれない。だが、それだけじゃ説明がつかない……」
桐生教授が分析を試みる。
「……モウヒトリ……?」
ノワールがぽつりと呟く。
「もう一人?」
美咲が耳を傾ける。
「ワタシ、ヒトリジャナイ……」
ノワールは目を閉じ、何かを必死に思い出そうとしている。
■ 手記に残された示唆
美咲が手記を読み進める中で、ある一節に目を留めた。
「……ここに書かれているわ。“存在が目覚めた時、その均衡が崩れることを恐れた者が封印を施した”って。」
「均衡……?」
本田が眉をひそめる。
「それが何を指しているのかは書かれていない。でも、誰かが意図的に“何か”を封じようとしたのは間違いないわ。」
美咲が言葉を続ける。
「ノワール、お前は何か知っているのか?」
隼人が問いかける。
「……ワカラナイ……ダケド、ナニカガ……」
ノワールは困惑した表情を浮かべたまま、目を閉じる。
「記憶が完全に戻っていないのか?」
桐生教授が慎重に推測する。
「彼女が何を感じ取っているのかは分からないが、少なくとも我々が知る以上の何かが存在しているはずだ。」
■ 新たな手がかり
隼人たちは、小屋に残された手記や資料をひとつひとつ丁寧に調べていた。
「……これは?」
美咲が一枚の古びた地図を見つけ出した。
「それは……?」
桐生教授が身を乗り出す。
「どうやら、ある場所を示しているみたい。」
美咲は指で地図上の一点を指し示す。
「ここ……山岳地帯の中にある小さな施設が示されている。政府の管理下にない場所かもしれない。」
「……封印されたダイヤモンドがそこにあるということか?」
隼人が地図を覗き込みながら言う。
「資料の一部に、こう書かれているわ。」
美咲が手記を読み上げた。
『かつて、未知のエネルギーを持つダイヤモンドがこの地に封印された。
それは、意識を持つ鉱石の存在を確認するための試みでもあった。
だが、我々の技術では制御することができなかった。
封印は完全ではないが、あの場所に眠らせておくことで均衡を保つしかない。』
「つまり、あの場所に“ダイヤモンド”が封じられている可能性が高いということか。」
桐生教授が冷静に言葉を紡ぐ。
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