第十一話 研究所閉鎖
■ 逃亡者たち
夜の冷たい空気が、隼人たちの荒い息遣いを包み込んでいた。政府の追跡を振り切り、彼らはようやく研究施設の裏手から脱出することに成功した。
崩れかけた非常出口を抜けた先には、広大な森林が広がっている。月明かりがかすかに木々の影を映し、闇の奥へと彼らを誘っていた。
「はぁ……はぁ……っ」
美咲は肩で息をしながら、振り返って後方を確認する。背後に見える研究施設の明かりは、もう遠くなりつつあった。
「武装兵たちは……まだ追ってきてる?」
「いや……今のところは気配がない」
桐生教授が慎重に辺りを見渡す。彼の眼差しは鋭く、長年の経験からくる直感で危険を察知しようとしていた。
「……あの男、大丈夫なのか?」
隼人はふと、研究施設に残った黒衣の男のことを思い出し、低く呟いた。
彼が足止めしてくれたからこそ、こうして無事に逃げることができたのだ。
「ワタシ……シンジテル」
ノワールが静かに言う。彼女の黒い瞳は、まるで全てを見通しているかのような深い光をたたえていた。
「アイツ……キット、マダイル」
隼人は、ノワールの言葉を信じるしかなかった。
■ 研究所の封鎖
一方、研究所では――
政府の部隊が完全武装で施設内を制圧し、次々と残された研究データを回収していた。隊員たちは淡々と作業を進める。
政府とは別組織の武装兵たちはすでにいない。
「対象の研究データは全て回収したか?」
政府の指揮官らしき男が、端末を操作している技術者に確認した。
「はい。しかし、一部のデータが破損しており、完全な復元は不可能です」
他の隊員からの連絡が入る。
「ブラックダイヤモンドが砕け散っています」
「……やはりか」
指揮官は鋭い目でモニターを見つめる。
「桐生、高嶋、水瀬が“何か”を持ち出している可能性は?」
「データ端末の解析を進めていますが……まだ特定できません。ただ、ネットワークの一部が改ざんされており、何者かが情報を持ち出した形跡があります」
「やはりな……」
指揮官は腕を組み、険しい表情を浮かべた。
「この施設は“存在しなかった”ことにする。政府の公式記録から完全に抹消しろ」
「了解しました」
命令が下されると同時に、技術者たちは施設のデータを完全に消去し始めた。研究所内の証拠はすべて闇に葬られようとしていた。
そして、研究所は完全に封鎖された――。
■ 新たな隠れ家へ
冷たい夜風が頬を切り裂くように吹き抜ける中、隼人たちは闇の中を慎重に進んでいた。政府の追跡を振り切ったばかりの彼らに、安心する暇などなかった。木々の影が暗闇をさらに濃くし、不安を掻き立てる。
「ここまで来れば、ひとまずは安全か……?」
桐生教授が振り返りながら、低く呟いた。その顔には疲労の色が濃く出ている。
美咲は端末を片手に、素早く状況を確認する。
「今のところ、政府の追跡装置には引っかかっていないわ。でも、このままじゃ時間の問題よ。」
「これからどうするの?」
美咲が隼人に問いかける。息を整えながらも、その瞳には強い意志が宿っていた。
隼人は眉をひそめ、周囲を警戒しながら歩を進める。
「政府が本気で俺たちを追っているなら、衛星やドローンを使って居場所を探るだろう。あまり長居はできない。政府の目がある以上、下手に町へ戻るのは危険だ。どこか安全な場所を探さないと」
桐生教授も頷く。
「研究所に私たちがいないことから、私たちが何かを持ち出したと政府は考えているだろう。私たちは“政府に追われる立場”になっていると思う。うかつに動けば、すぐに捕まるだろう」
「なら……どうする?」
隼人が考え込む。
ノワールは隼人の肩に乗り、静かに目を閉じていたが、突然、薄く震える声を発した。
「……イヤナカンジ……」
「ノワール、どうした?」隼人が心配そうに聞き返す。
「ワカラナイ……ダケド、キケンナニオイガスル……」
ノワールの言葉に、隼人たちは一気に緊張感を取り戻した。
この先に何が待ち受けているのか、それはまだ誰にも分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます