ブラジルのひと、聞こえますかぁ

でんもく

第1話

 お笑い芸人「サバンナ」の八木。

 サバンナ高橋じゃなく、ガタイのいいほうの八木。

 いつもタンクトップを着ていて、地球の反対側にむかって「ブラジルの人、聞こえますかぁー!」と叫んでいる八木。

 そんな八木の家族は、みんな変わっていて、ちょっと天然なところがあるそうです。

 そしてこれは、八木が小学生だったころのお話です。


 夏休みのある日。八木はカブトムシを捕まえに、飼い犬と裏山へ行きました。

 犬といっしょに山道を歩いていると、とつぜん大きなヘビが出てきました。

 マムシです。毒を持っています。

 八木はおどろき、息をひそめます。しかし、となりにいた犬がいきなり吠えだしてしまった。それに怒ったのか、マムシが犬に飛びかかる。

 ガブッ!

 見ると犬の前足に、マムシが噛みついていました。

 犬はその場にたおれこみ、うめき声を発します。

 とっさに八木はマムシのしっぽをつかみ、そのまま遠くへ放り投げました。

 犬はまだ、うめいています。八木は「だいじょうぶか?」と近より、犬を抱きかかえました。

 すると混乱した犬が、八木の手をガブリと噛んだ。

「痛っ! なにすんだ、お前」

 予期せぬことに八木はうろたえます。

 ホントの意味で飼い犬に手を噛まれてしまった八木。とりあえず家に帰ろうと、犬を連れて山をおりました。

 裏山から家にもどるあいだ、八木はあることを心配していました。

 実際のところ、どうなんだろう。これは、やばいかもしれないな……。


 家にもどった八木は、裏山で起きたことを両親に話しました。

 そして八木が言います。

「オレ、だいじょうぶか?」

 なんのことを言っているのかわからない両親は、息子の手を心配します。

「犬に噛まれた手が痛いのか?」

「いや、手はそんなに痛くない。それよりオレ、平気なんかなぁ?」

 やっぱり意味がわからない。この子は、なにを言っているのだろう。

 両親は、そろって首をかしげます。


 八木の言いたいことは、こうです。

 まず、マムシが犬を噛んだ。つぎに、マムシに噛まれた犬が自分を噛んだ。

 ということは、自分にもマムシの毒がまわっているんじゃないか?

 そういう意味で「オレ、だいじょうぶか?」と八木は言ったのです。

 八木の考えを理解した両親は、いっしょになって考えます。

 マムシに噛まれた犬に噛まれた息子。

 はたしてマムシの毒は、どこで止まるんだろう?

 もしかしたら息子は、マムシの毒に、おかされているかもしれない。

 なにしろマムシに噛まれた犬に噛まれたわけだからなぁ。

 絶対にだいじょうぶとは言えないだろう……

 家族三人で考えた結果、「とりあえず、医者に診てもらおう」ということになり、みんなで病院へむかいました。


 診察室。

 医者を前にして、裏山での出来事をくわしく説明します。

 そして父親がたずねました。

「先生、この子に毒はまわってますか?」

 医者はイスから立ちあがり、おもいきり叫びました。

「まわってるわけないだろぉー!」

 安心した八木家の面々は、みんなで仲良く家に帰ったそうです。


 いやぁ、よかったですね、毒がまわってなくて。

 マムシに噛まれた犬に噛まれた八木。

 これがマムシでなく、噛まれたのがゾンビだったらやばかったですけどね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブラジルのひと、聞こえますかぁ でんもく @denmoku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ