我に返る

 幼馴染みの女の子と、二人きりでエロゲーをプレイした。


 字面だけ見れば、何をやってるんだコイツらは、と言いたくなるような場面だ。


 だが、当時の俺達にはそんな間抜けな様を俯瞰して見ることなんて不可能だった。


 二人とも無言で、ゲームの画面を進め続けた。

 言葉を忘れて、

 瞬きを忘れて、

 呼吸さえも忘れていたかも知れない。


 そして、ゲームはエンディングへと辿り着いた。


 けれど、その内容がどんなものだったのか、正直俺は覚えていない。


 頭に残るのは、画面の中で濃密に絡み合う主人公とヒロインの姿。


 事もあろうに、俺はその姿を自分と隣にいる幼馴染みに重ね合わせてしまった。


 羞恥心と罪悪感で、俺は身動きができなくなっていた。

 ほんの少しでも身動ぎをしてしまえば、自分の頭の中にある不埒な妄想が、シアンに伝わってしまうと思えたからだ。


 数分が数十分、数時間にも感じられる気まずさの中、かすかに俺の袖が引かれる感覚がした。


 動かした視線の先に居るのは、当然ながら幼馴染みのシアン。

 だが、そこにいつもの快活な姿は無く、耳まで真っ赤に染めた顔を俯かせ、震える手で俺の袖をつかむ少女が座っていた。




 一線は、呆気なく越えられた。




 正直に言おう。


 俺達はハマった。


 思春期故の体力と学習能力によって、繰り返されるその行為は、量(回数)も質(内容)もエスカレートしていった。


 小遣いの殆どが避妊具に消えたと言える程、子供ができていなかったのが奇跡だと思えるレベルで、当時の俺達は猿になっていた。


 俺達の間に恋愛感情は無い。


 肉体関係まで持っているくせに無責任な言葉だが、それが俺とシアンの共通している考えだ。


 ひょっとしたら、俺がシアンを異性として好きになって告白するなんて展開もあったかも知れないが、あの日の過ちで、その芽は消えた。


 脳が焼かれた、と言えばいいのか、少なくとも繰り返される行為の中で、俺の価値観は壊れてしまった。


 


 正気に戻ったのは、翌年の2月。



 切っ掛けは、またしてもエロゲーだった。



 その日、俺達は珍しく行為を行わず、シアンの部屋でゲーム(健全)をプレイしていた。


 そんな時、シアンがふと思い出したように


 「そう言えば、《あのゲーム》続編が出てたみたいよ?」


 《あのゲーム》、言うまでもなく俺とシアンの関係を変えた泣きゲーの事である。

 だが、続編という言葉に、俺は違和感を感じた。

 何故ならば、

 「続編って、あれって主人公が死んで終わりだろ?」


 そう、あの泣きゲー、エンディングで主人公が死んでしまうのである。

 それも1つや2つではない、全てのエンディングで、主人公の青年は命を落とすのだ。

 その死に様も、病気や事故などというシリアスなものではなく、

 ・サムズアップをしながら溶鉱炉に沈む。  

 ・山登りの最中に突如現れたイノシシの群れに流され崖から落ちる

 なんてトンチキな死因ばかり。

 しかもそのシーンは描写されずに、ただそういう理由で主人公はくたばったのだと、彼の墓前に佇むヒロインの泣き笑い顔をバックに文字だけで説明されるあんまりなものだった。


 後日、調べてわかった事だが、あのゲームは

 『ストーリーもCGも高水準だが、EDだけがクソ』

 『泣きゲーなのはクレジットが流れるまで』

 『シナリオ担当の人、EDの時だけ酒飲んでた?』

 と、ちょっとしたバカゲー扱いをされていた。

 それでも、ED以外の評判は概ね悪くないものだった。


 ただ……、『あれで終わっときゃ良かったのに』という感想がちらほら出ていたのが、少々気に掛かる。


 ともあれ、

 「主人公が死んでるのに続編……、舞台だけ同じでキャラクターだけ変えてる感じか?」

 「ん~、見た感じヒロインは続投っぽいんだよね」

 そう言って机の引き出しからゲームのパッケージを見せるシアン。


 買ってたの?

 

 どうやって?


 「いや、お父さんの部屋から借りてきた」


 引き出しの奥にすっごい厳重に梱包してたんだよねー。

 呑気に宣うシアン。


 嫌な予感しかしない。


 俺は渡されたゲームのパッケージを見た。



 前作で見たことのあるメインヒロインが、泣き笑いではなく、満面の笑みで、こちらを見ていた。



 嫌な予感は当たった。


 泣きゲーは、寝取られゲーになっていた。



 そこから俺達は、正気に戻った。


 何故と言われたら困ってしまうが、多分エロに壊された脳が、別のエロで更に壊された結果、逆に元に戻ったのだろう。


 そういうことにしといてほしい。




 『……アタシ達、ただの幼馴染みに戻れるかな……』


 『戻れるさ、……戻らなきゃいけない』


 『……だろ?』


 『ん、……だね』


 無駄にシリアスぶっているが、約一年間ぶっ続けで盛っていた元猿二匹の会話である。


 とにかく、納得のできる過程ではなくとも、俺達は正気に戻り、ただの幼馴染みに戻ることになったわけだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 「……と、言うわけで」


 過去の事を思い返していた俺の横で、


 「アタシ達はこどもの日に大人の階段を登っちゃったって訳よ」


 幼馴染みのとんでもない発言は続いていた。


 困ったもんだよ。


 「「HA、HA、HA~!」」


 ……。


 笑えねぇ……。


 

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