第24話『靴を脱いだら、知らない人生が始まった』

 玄関で、靴を脱いだ。

 ほんの普通の動作。

 でもその瞬間、**世界が“かすかにズレた”**気がした。



 ***


 部屋に上がると、まず違和感。


 家具の配置が逆。

 カーペットの色も、リモコンの場所も違う。


「……あれ?」



 ***


 リビングにいた家族が振り向く。

 でも、知らない顔だった。


「おかえり、健太。今日は早かったね」


 健太?誰?



 ***


 声を出そうとしたけど、

 口から出たのは――


「……うん。ただいま」


 自分の声じゃなかった。



 ***


 鏡を見ると、

 映っていたのは少し年上の自分。


 髪型も違う。制服じゃない。

 なのに、記憶にはないのに、違和感がない。



 ***


 部屋に戻ると、机の上に

「明日の会議資料」と書かれたファイルがある。


 スマホには、知らない名前から「今夜どう?」のメッセージ。

 アプリの配置も、壁紙も、全部“別の自分”。



 ***


 気づいた。

 この人生は、どこかで「選ばなかった未来」だ。



 ***


 混乱しながらも夜を過ごして、

 朝、目覚めると玄関に向かった。


 脱いだ靴の前に、元の自分の靴がきれいに揃えてあった。


 でも――

 その靴を履いた瞬間、

 背後から声がした。


「もう戻れないよ。“今の靴”は、きみに合ってるから。」



 ***


 振り返っても、誰もいなかった。


 でも不思議と怖くなかった。



 ***


 新しい靴を履いて、

 僕は新しい一日を歩き始めた。



 ***


 完(人生って、脱ぎ履きできるほど簡単かもしれない)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る