第8話 透明な檻の中

中学校に進学しても、何も変わらなかった。

いじめは続き、私は相変わらず孤独な存在だった。


家でも変わらず、妹は私の体型をあざ笑った。

「お姉ちゃんと姉妹なのが恥ずかしい」と真顔で言われた。

私はその言葉を飲み込むしかなかった。

何も言い返せなかった。


寂しさを紛らわすように、私は食べた。

お腹が空いているわけじゃない。ただ、何かを満たしたかった。

けれど、食べた分だけ体重は増え、私はますます嘲笑の的になっていった。


授業にもついていけなかった。とくに数学の時間。

先生は、わざと私を指名した。答えられずに黙る私を見て、授業が止まる――

その沈黙の時間を、どこか楽しんでいるように見えた。


その様子を見て、クラスの空気も変わった。

失笑、ため息、目をそらす子。無視する子。

私は、まるでクラスに存在しない人間のように扱われていった。


一番つらかったのは、授業中に外に出てグループで調べ物をする時間だった。

私はいつもひとり。誰も声をかけてくれない。

「慣れた」と自分に言い聞かせていたけれど、心の奥では泣き叫んでいた。

寂しくて、孤独で、ひどく惨めな時間だった。


部活動も、人手が足りないという理由で仕方なくソフトボール部に入れられた。

興味なんてなかった。ルールすら覚える気にもなれず、試合にも出られなかった。

私はそこでも“空気”だった。ただ在籍しているだけの存在。


そんな中で、なおみという子と知り合った。

小学校が一緒だったけれど、当時は一度も話したことがなかった。

最初は「この子は優しそう」と思っていた。でも、それはすぐに裏切られた。


ある日、部室で昼食を食べていたときのことだった。

突然、なおみに頬を殴られた。しかも皆の目の前で。

あまりに唐突で、私も周囲も何が起きたのかわからなかった。


抵抗はした。けれど、なおみは私より背も高く、力も強かった。

大暴れする彼女を、誰も止めようとはしなかった。

私はまたしても、理由のわからない暴力にさらされた。


それから、なおみの私に対する態度は、はっきりと冷たくなっていった。

私を馬鹿にする様な視線、わざとらしい溜息や、皮肉めいた言葉、車が通るたびに車道に向けて私を思いっきり押したりなど暴力まで加わるようになった。

彼女もまた、自分が標的にされないために、私を踏み台にしていたそんな風にしか思えなかった。

それだけじゃない。

家庭や人間関係、彼女自身のストレスも、全部まとめて私にぶつけていたように感じた。


どうして。なぜ。

そんな問いは、もう何度も頭の中を駆け巡った。

だけど、答えなんてなかった。


私はただ、理解できない痛みと、終わりの見えない

いじめの日々を、

耐え続けるしかなかった。


「いじめられる側にも原因がある」と何度も聞いた事がある。

でも、たとえ原因があったとして、それが集団でいじめていい理由になるはずがない。

傷つけることを正当化するための言い訳に過ぎないのだ。


「早く今日が終わればいいのに」感情もなく、

祈りのようにそう思う自分がいつからか当たり前になっていた。

喜びも、悲しみも、悔しさもなくて。ただ、時間だけが通り過ぎるのを待つことしかできなかった。

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