狼と花
満月が淡くも黄色い輝きを放つ夜
一匹の銀狼が崖の上から下を見下ろしている
その崖の下には一輪の花
闇をも光に変えるような真っ白い花を咲かせて、誰にも見られる事などないかのようにひっそりと咲いていた
銀狼はその可憐で儚げな花が気になるのか、ただじっと…それを見続けている
「おいでよ」
不意に花から声が聞こえてきた
辺りには誰もいないのに、確かに聞こえる
少女の声だ
「君は誰?どこにいるの?」
銀狼は戸惑いながらも、崖を慎重な足取りで降り、その花に近付いていく
「ここだよ」
目の前にある花は、自分を見つけてくれた銀色に輝く毛並みの狼が来るのを静かに持っていた
「私を見つけてくれて有難う」
花が小さく揺れる
この花こそが少女の声の正体だったのだ
「こんなところにひとりきり、寂しくはないかい?」
銀狼は花に問いかけた
花は小さく揺れる
「あら?あなただって同じでしょう?」
「いや、僕は違うんだ」
――""寂しくない""なのか""ひとりじゃない""なのか……
狼から、その先の言葉は出てこなかった
「じゃあ、なぜ私を見つけて……こうして会いに来て寂しさから助けてくれたの?」
そう言う彼女に、銀狼は答える
「ひとりきりの君と同じさ……僕にも以前は家族がいた。君を助けたのはただの気まぐれじゃない……心の底から君のことが心配になったんだよ」
「どうして心配してくれたの……?」
花の問いかけに、狼は一瞬戸惑った
「それは僕にも分からないけど……強いて理由を挙げるとすれば、僕も君のように一人で寂しい思いをしてきたからだね」
「ほら、やっぱりあなたも同じなのね……」
花は何だかとても嬉しそうな声で呟いた
白い花弁が揺れる
それからというもの、狼と花は共に過ごすようになった
互いの孤独を埋めるように寄り添って、いつまでも語り合う
そしていつしか互いに恋仲となり、狼は花を風雨から守るようにして過ごし、花は狼の孤独な心を埋めて行った……そうして愛を育んでいく日々も束の間
やがて時は流れていき……
花は枯れ始め、狼も一歩も動かずに花を守っていた為に命が尽きる時が訪れた
狼は枯れた花を抱く(いだく)ように自分の尻尾で覆い、まるで互いに強く抱き締め合うようにして眠るように目を閉じていった
「ねぇ、もしまた出会えるなら次はいつにしましょうか?」
「そうだね…今度は明るい場所で会いたいかな。二人共人間になって、一緒に暮らさないか?」
「ふふっ。それもいいわね」
可憐な花はそう言うと、儚く笑って散っていった……
狼も、目を閉じたまま静かに息を引き取る……
崖の下に、狼と花がいた事は、誰も知らない……
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