鬼神の末裔と龍神の巫女

春森千依

第1話 プロローグ 夢の話

 たまに、夢を見ることがある――。

 

 見上げるほど巨大な鬼が、私を見下ろしている。感情などそこには少しも感じられなくて、ただ、火山から噴き上がる真っ赤な炎のように深い赤色の瞳がそこにあるだけだ。確かに恐怖で足が竦み、少しもその場から動けないと感じているのに、〝私〟であるその女性は怖じ気づいた様子もなく、堂々と刀を構えていた。


 白い装束に、緋色の袴。巫女装束に身を包んでいる、黒い髪の女性。夢の中で、私はその女性の中にいるようで、高見から見下ろしているようにも思えた。まあ、夢なんて、たいていそんなあやふやなものだろう。


 私が渾身の力で刀をふるうと、鬼の首は切り落とされてゆっくりと落下する。血が滝のようにその切り口から溢れ出していた。その血を全身に浴びて、袴だけではなく、真っ白な衣まで赤く、赤く染まっていく。

 けれど、その女性は少しも動じない。血を浴びるその姿は、いっそ心地よさそうにすら見える。薄らと笑う姿は艶美でもあり、背筋が凍るほど不気味でもあった。

 

 いつもそこで、目が覚める。

 目が覚めた後は、ゾクッとして体の震えがしばらく止まらなかった。

 今朝見た夢も、そんな夢だ――。


 いつもの夢と思うにはあまりにもリアルで、ひんやりとした洞窟内の空気や、血の臭いすら感じられたような気がするのに。そう、あれは洞窟、鍾乳洞だ。


 見覚えがある気がするけれど、ただテレビで見ただけなのかもしれない。


 夢はいつだって、そんなものだ。

 

 

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