第16話 次の舞台は球技大会!と不本意な配役

中間テストという名の戦いが終わり、教室にはしばしの安息が訪れていた。

答案は返却され、赤点の恐怖に怯えることもなくなり、生徒たちの表情にも余裕が見られる。


俺も、会長のおかげで数学の自己ベストを更新し、少しだけ気分良く過ごしていた。

まあ、会長本人との関係は、お礼を言った後も相変わらずギクシャクしているわけだが……。


そんな平和な放課後のホームルーム。

担任が教壇の前で一枚のプリントを掲げた。


「えー、連絡事項だ。再来週、恒例のクラス対抗球技大会を行うことになった」


その一言で、教室の空気が一変した。


「「「おおおおっ!!」」」


運動部所属の連中や、イベント好きの生徒たちが一斉に沸き立つ。


「よっしゃー! 今年こそ優勝するぞ!」


「バスケは任せろ!」


「女子バレー、去年準優勝だったから今年は絶対優勝!」


熱気に満ちた声が飛び交う中、俺のような文化部(帰宅部だが)かつ運動音痴の人間は、ただただ「面倒なことになった……」と内心で溜息をつくのみである。


「各種目の出場選手と、応援や備品管理などの係をクラス内で決めてもらうことになる。放課後の時間を使って、クラス委員中心に話し合ってくれ。じゃ、以上!」


担任が教室を出ていくと、すぐにクラス委員が前に立ち、出場種目はバスケ、バレー、ドッジボール、卓球あたりが定番だと参加希望者を募り始めた。


「はいはーい! 私、バスケやりたーい!」


真っ先に手を挙げたのは、やはり結衣だった。彼女は中学からバスケ部で、その運動能力は折り紙付きだ。クラスの貴重な戦力として、満場一致で女子バスケの代表に決まった。


次に注目が集まったのは、女子バレー。


「やっぱり、ここは西村さんにお願いしたいよね!」


「そうだそうだ! 会長がいれば百人力!」


クラスメイトたちの推薦の声に、西村会長は少し困ったように微笑みながらも、


「……分かりました。足を引っ張らないように頑張ります」


そう、控えめに承諾した。

去年もエースとして活躍していたらしい。完璧超人は、運動神経も完璧なようだ。


男子の主要メンバーも次々と決まっていく。

俺は…といえば、もちろん、存在感を消して、この嵐が過ぎ去るのを待っていた。応援係とか、そういう目立たないやつでいい。いや、むしろそれがいい。


だが、そんな俺のささやかな願いを、あの幼馴染が見逃すはずもなかった。


「ねーねー、男子のバレー部員が足りないみたいだけど、係とかどうするの?」


一人の女子の発言をきっかけに、係決めの話題になった。応援団長とか、そういうのは目立ちたがり屋に任せておけばいい。


俺は備品管理とか、そういう地味なやつを……。


「あ、そうだ! 女子バレーのマネージャー的な係、誰かやらない? ドリンク準備とか、ボール拾いとか、結構大事だと思うんだけど!」


クラス委員の女子が提案する。


(お、それなら目立たなくていいかも……)


俺が少しだけ興味を示した、その瞬間。


「はーい! それ、健司にやらせるのがいいと思いまーす!」


元気よく手を挙げたのは、結衣だった。


「えっ!? なんで俺!?」


俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。


「だって健司、運動苦手だけど、そういうサポートとか得意そうじゃん? それに、クラスの勝利のためには、適材適所でしょ!」


結衣は、爽やかな笑顔で、とんでもないことを言う。こいつ、絶対に何か企んでるだろ!


「いや、でも、俺より適任がいるんじゃ……」


俺が反論しようとすると、周りのクラスメイト特に女子だが「あー、確かに佐藤くんなら真面目にやってくれそう!」「会長のサポート、お願いね!」と、なぜか賛成ムードになってしまった。


(会長のサポート……だと……!?)


その言葉に、俺は凍りついた。


女子バレー。つまり、必然的に、西村会長と行動を共にすることが多くなるということだ。

練習中も、試合当日も。あの、俺の前でだけポンコツ化する会長の、すぐそばで?


チラリと、会長の方を見る。

彼女は、俺が係に決まった瞬間、ほんのわずかに目を見開き、それからすぐに俯いて、自分の指先を見つめていた。その表情は読み取れない。だが、なんとなく、動揺しているような……そんな気がした。


「よし、じゃあ女子バレーのサポート係は佐藤くんで決定ね!」


クラス委員の宣言により、俺の不本意な配役は、あっさりと決定してしまった。


結衣が、俺に向かって「やったね!」とでも言いたげな満面の笑みで、親指を立てている。……後で覚えてろよ。


こうして、俺の球技大会は、選手としてではなく、よりにもよって西村会長のいる女子バレーチームのサポート係として参加することが決定した。


これから始まるであろう練習期間のことを考えると、俺は頭が痛くなるのを感じた。

胃も痛いかもしれない、そんな感じがする。


(……大丈夫か、俺の精神状態)


平穏な日常は、またしても遠のいていくようだった。

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