泡沫ユートピア

有田昇華

第1話

許嫁いいなずけなんて、決めないで欲しかった。

生まれた時から嫁ぐ家は決まっていて、私の意思は誰も考えない。

『桜井家』

霊能関係の界隈では知らない者がいないとされている家系。

一応私の家もそれなりに名前は知られているらしいが、桜井家程じゃないし、私には全く霊力はなかった。そのくせ、引き寄せ体質なお陰で、友達はいなかった。

大きくなれば、嫁がなくてはいけない。望まない婚約。

だから、桜井家と両親の話し合いの末、私が高校生になったら三人で暮らさせてみよう。という結果になった。

元々は上の子が私の許嫁相手なのだが、何故か下の子がゴネて二人のうちのどちらかという話になった。

許嫁の相手は同じ年齢の双子の兄弟だった。

兄の桜井悠斗ゆうとと弟の桜井蓮斗れんと

双子というだけあって、二人は仲が良かったし、鏡合わせのような子だった。

そんな空間に余所よそ者の私が入れる訳もなく、私は自然と二人から距離を置いていた。

どうしてこうなったんだろうと思うことが私の人生には何回かあった。


例えば、小学生になる前の幼少期。

公園で遊べば怪しいおじさんに声をかけられない日はなく、一人での外出は滅多に出来なかった。遊ぶ時は双子と一緒。何故か二人が一緒の時は声をかけられることはなかった。不審者を引き寄せることで悪評だった私に友達が出来る訳もなく、めそめそと私が泣くと蓮くんに慰められていた。

例えば中学生の頃。

この頃には自分が霊などの引き寄せ体質であるということは何かと察して、対処出来るものは何かと気を付けていた。ここら辺は双子の協力も多く、特に悠くんから貰ったお守りは効果抜群。

そしてこのお年頃になると恋バナなどもある訳で、何度か男の子から告白されたりもしたが、そのほとんどが、翌日から何かに怯えたように距離を置くかストーカー化するかの二択だった。『周囲を不幸にする子』なんて不名誉な噂を流され、お陰で周囲の人は双子しか残っておらず、友達は一人も出来なかった。

そして現在。

「えへへ、このパンケーキ、ネットで見付けて食べてみたかったんだ!二人と来れて嬉しい!」

「、、、す、凄いな。ゆっくり食べろよ」

「凄い、、、生クリームがマシマシ、、、」

山のごとくそびえ立つ生クリームでほぼ見えなくなっているパンケーキにはしゃぐ青年と、そんな彼を見て少し驚きながらコーヒーを飲む青年。

この二人こそ、幼少期からお世話になっている許嫁という位置付けにいる双子の兄弟、悠くんと蓮くんである。今日は蓮くんの希望で三人で人気のパンケーキ屋にいるのだが、、、気になる。他の女性客からの視線が気になる!

分かってるよ、二人は格好良いもんね。中学生のバレンタインの時、物凄くチョコを貰ってたから分かるよ。悠くんはクール系で蓮くんはゆるふわ系だもんね。

今すぐ嫉妬の目で私を見ている女性客全員に「私は関係ない人です」「二人を頼みます、、、!」と、頭を下げて説明したい。

別にこのパンケーキ屋に行ったのだって、蓮くんのうるうる攻撃と悠くんの有無を言わさない圧力、そして奢りという魅力的な言葉に釣られただけなんです、、、!!

「明日、入学式なのに、、、!!」

「その前に未来ちゃんは荷解きだね」

「、、、思い出したくなかった」

「お前、荷解きくらい自分でしろ。まだ終わってなかったのかよ」

悠くんに呆れられながら鼻で笑われてムッとしたが、全て事実なので言い返せない。呑気のんきにパンケーキを食べているが、本当にどうしよう。

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