瀬見『青い自転車』
僕のアパートの下には、誰のものとも知れない青い自転車がある。いつからそこにあるのかは、僕にもわからない。
たまに、猫がそのサドルの上で寝ていた。猫は自転車に乗らない。でも、乗りたがってるような気がした。小さな、灰色の猫だ。そいつはそこが自分の持ち物であるかのような顔で、静かにこちらを見た。
「君、猫だよね?」
僕はその灰色の子猫に話しかける。
「たぶん、そう」
彼、または彼女は言った。
「それ、君の自転車なの?」
僕は訊ねる。
「たぶんね。わたし、スカートを靡かせて、二本足で漕ぐのよ」
どうやら、女性性に近い思考の持ち主のようだ、とわかった。これからは彼女と呼ぶことにする。
「君は自転車が乗れるのかい?」
「人間の真似事が上手いだけ」
「君は、誰かを好きになったことがある?」
その質問に対して、彼女は、くわぁとあくびをする。
チェーンのように絡まった言葉を、風が静かにほどいていく。
見上げたときには、灰猫の姿はどこにもなかった。
僕は再びあの青い自転車を見ると、再び話しかけたくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます