第一部

第1話プロローグみたいなもの

 チャイムが鳴ると同時にワイワイ騒いでいたクラスメイト達が次々に自分の席に戻り出す。そして静かに先生が来るのを待つ。暫くすると教室に四十代の短髪男性が入ってきた。男性は最早トレードマークともいえるヨレヨレのジャージに身を包んでいるのが見てとれる。

 

 男性の正体はこのクラスの担任でもある中村先生なかむらせんせいその人。あんなナリだけど勝ち組だといえる。なんせしてるのだから…。


 男は外見じゃなく中身で勝負って事なのかっ!?


「うぃ~~~すっ!」


 担任の中村先生は教壇に立つと同時に気怠いような声でそう言った。気怠さも魅力といえるのかっ!?


「「「「「おはようございます!」」」」」


 先生の挨拶に対して、


 高校に入学して一カ月も経てば、まあ、流石にコレは見慣れた朝の光景となってるんだけどな。



「今日は授業を始める前にみんなにとんでもないビックニュースを発表したいと思う!」


 先生のその言葉に静かになっていた教室内が少しざわつき始めた。かくいう俺もとんでもないビックニュースってなんだろうな?と、思い先生の次の言葉を待つ。


「なんと…なんとだっ!このクラスに新しい生徒が一人増える事になった!」


 なるほど…な。転校生とは…。しかし転校生が来るってだけでビックニュースって言う程だろうか?


 クラスメイトの半数以上はそう思っていた筈だ──




「聞いて驚くな!心臓麻痺を起こすなよなっ!そしてくれぐれも問題は起こすなよ?まだ先生は家のローンを払い終えていないんだから定年を迎えるまで教師をクビになるわけにはいかんのだ!!勿論学校がなくなるとかそういう最悪な展開なんて絶対に起こさんでくれよ?そしてなにより俺には嫁さんがいるしな。嫁さんを泣かせる訳にはいかんしな!とにかくいいか?コレはフリじゃないぞ?フリじゃあないからな?マジで言ってるんだからな?」




 ──先生の次の言葉を聞くまでは…。 



「な、なんとな。転校生は女子生徒だ」



「っ!?」

「はあっ!?」

「…う、嘘だろ…?」

「マジか!?マジなのか!?」

「とうとうこのクラスにもが…」

「…億が一…付き合える…?」



 おいおい…マジかよ…?それは本当にビックニュースだぞ…。まあ、俺には関係ないだろうけど。



「みんなが驚くのは無理はない…。分かる…分かるぞ、その気持ち…。先生もみんなと同じようにこの話を聞いた時はマジか!?と、驚いたからなぁ…。ああ、それと…億が一付き合えるとか思った奴は夢見すぎだぞ?」



 そりゃあ驚くわ…。クラス中がざわつくのも正直無理はないと思う。なにしろこのクラスには…。まあ、。女子生徒がクラスに一人でも居れば、それはいい方だと…幸せだといえるんじゃあないか…。


 一応言っておくけど、この学校は共学の高校だ。



「まあ、そんなわけで…だっ。みんな少し静かにしてくれるか?今から彼女に教室に入ってきてもらおうと思う。みんな心の準備はいいな?くれぐれも問題は起こすなよ?去勢される馬鹿や犯罪者になる馬鹿が出ない事を先生は強く願うぞ?と、いうより余計な事はするなよ?」



 先生が口にした言葉は決して。本当に《《去勢》される恐れやらがあるから言ってるんだ。


 ただ…去勢って言葉を聞くだけでもゾッとするな…。でも使う機会がなかったのにそんな事されて溜まるかってぇの。今世はコレをなんとしても使いたいんだっちゅ~のっ!


 しかしそれも難しいだろうけどな…。




「じゃあ…教室に入ってきてくれ!」



 先生の言葉に『はい!』という透き通るような女の子の声が聴こえてきた。同時に教室のドアが開いて──





 ──スーツを着てサングラスを装着した厳つい四名のの男性達に周りを囲われた女子生徒が教室内へと入ってきた。


 その女子生徒を見た瞬間…殆どのクラスメイト達が思わずゴクリと唾を飲み込んだり、声にならない声を発したのは言うまでないだろう。


 黒い艶のあるサラサラとした腰まである長い髪…。体型はスラッとしていて、女性の象徴ともいえる部分もしっかりその存在を主張するかのように膨らんでいる。B…いや…Cはあるだろうか。とにかくだ。彼女が美少女じゃなかったら誰が美少女なのかといえるようなそんな彼女。



 俺も思わずみんなと同じように唾を飲み込んでしまったしな。まあ、俺の場合はその女子生徒を見てそうなったんじゃあなくて、女性警護官の男性の腰に装着された物が目に入ったからだ。だって警棒やらスタンガン…そして…拳銃やらを装着しているんだもの…。


 知ってるか?信じられるか?女性警護官の男性はすでに去勢してるんだぜ?まあ、去勢しないと就けない職業なんだけどな。

 


「まずは彼女に自己紹介からしてもらおうと思う。じゃあ宜しくな?」 


 


「は、はい!み、みなさんはじめまして。私は小野寺奏おのでらかなでと言います。ええと…趣味は音楽を聴く事です。色々と分からない事も多いと思いますので教えてくれると嬉しいです。今日からどうぞ宜しくお願いします」


 

 恥ずかしいのか頬を赤く染め、少しうつむき加減になりながらもしっかりと自己紹介を終えた彼女。美少女のそんな姿にクラスメイト達は心を奪われたのは言うまでもないだろう。現に分かりやすく自身の胸を押さえている者が多いしな。お前等分かりやすすぎない!?漫画の世界かよっ!?




 まあ…もうみんな分かってる事だとは思うんだけど、この世界は女性の比率が圧倒的に少ない世界だ。前世では三十歳の誕生日を迎えた当日に俺は過労で倒れてそのまま亡くなったってわけ…。ブラック企業に勤めていたせいだな…。んで、当然童貞だった。童貞で30歳だったからある意味魔法使いとはいえるだろうけどな…。まあ、言いたくも思い出したくもないけどな。


 ゴホン!とにかくだ。亡くなって転生した時はそりゃあもう喜んだもんだ。もしかして異世界転生!?もしかして魔法とかスキルはあるのか!?前世では悲惨だった分チートとかもらってハーレムまっしぐらなのか!?



 ──ってな…。



 しかしそんなものはなかった…。魔法なんてものは当然ない。転生したこの世界は前世よりも酷いもんだ。ただでさえ彼女なんていなかったのに女性が少ないそんな世界にわざわざ転生って…おかしいよなっ!?そう思わないかっ!?あんまりじゃないかっ!?今世も彼女が出来る確率はどう考えても低すぎるだろ!?ため息しかでんわ!



 この先どうなるんだろうな…。少しは良いことあるといいけど…。この世界に生を受けて早十五年…。今世は前世よりもよくなるといいな…。




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