【第13話 衝突と受け流し】
学院の模擬戦闘授業、第三区画。全五区画でそれぞれ試合は進んでいる。
生徒たちの緊張が高まる中、次なる対戦カードが掲げられた。
「第三区第三試合──トーヤ・メルグ 対 リューエル・ヴァルミレイア」
その瞬間、場に軽いざわめきが走る。ふたりの名前にはそれぞれ、異なる注目が集まっていた。
「悪いが、俺も、ファンの熱風派とおんなじで、魔道具の活躍を見せられる機会なんだ」
トーヤは笑みを浮かべながら、手早く準備を進めていく。
籠手エリーとブーツ(ミア)に、それぞれ調整済みの《衝撃》属性トパーズを嵌め込み、試すように足踏みしてみせた。風圧が地面をかすかに撫でる。
リューエルは一度目を伏せ、逡巡する。 だがトーヤの期待を前に、静かに頷いた。
「分かった。全力でやろう」
その足でリューエルは審判を務めるグラントのもとへと向かい、ある確認を行う。 ──自身の身につけているダイヤモンドの自動発動について、これは反則に当たらないか。
ダイヤモンドは王族のみに与えられ、持ち主の身に被害の可能性が生じたとき、自動的に防御魔法を発動する性質を持つ。
今回のような実技演習においては微妙なラインだが──
「……良いだろう。発動条件と性質は把握している」
グラントは短く答えた。
その確認が終わると、ふたりは向かい合い、戦いの時を迎えた。
「第三試合──始め!」
◆
開戦と同時に、トーヤが地を蹴った。
詠唱もなしに跳躍するのは、ブーツ(ミア)の機能によるもの。
空気を裂いてリューエルの間合いへと突っ込む。
「いくぞ、エリー!」
籠手エリーが動く。
埋め込まれたトパーズが魔力を帯び──
「《弾はじけ》!」
強烈な《衝撃》が前方へ炸裂。
リューエルの身体が宙を舞い、後方へと吹き飛ばされる。
そのとき、リューエルの胸元で──ダイヤモンドが白く輝いた。
刹那、落下衝撃の直前に魔力が膨らみ、空中にふわりと結界が展開される。
落下の勢いを大幅に削いだ上で、やわらかな着地に変換する防御魔法だ。
「……っ、ありがとう……」
リューエルは呟くようにダイヤに礼を述べる。
この自動発動は、グラントの許可によってルール上も“認められたもの”である。
「おっかねえな、あれが自動ってのか……でも!」
トーヤは叫びながら、ブーツ(ミア)で再接近。
籠手エリーで右から薙ぎ払い、さらにジャケット(リュシア)の胸元で風の魔法を準備する。
「《防ふせげ》!」
リュシアの魔法が展開され、風の壁が後方への逃げ道を塞ぐ。
リューエルはとっさに小さな詠唱を重ねる。
「《妨さまたげ》!」
足元に走らせた魔力が、トーヤの軌道に微細な摩擦変化を与え、タイミングをずらす。
続けて、指先を掲げる。
「《守まもれ》!」
小さな防御魔法が展開され、エリーの一撃を逸らす形で受け流す。
「くぅっ、でもまだ──!」
トーヤは跳び、踏み込み、攻め続ける。
対するリューエルは、詠唱を最小限に抑えながら、受けて受けて、時にわずかに躱し──あくまで流すように立ち回る。
派手さはない。けれど、その慎重さは確かな技術だ。
観客席に近い場所で、ひとりの生徒がぽつりと呟いた。
「……あれ、すごいな。あれがリューエルくん……?」
「防ぎきれてる……トーヤくんの動き、めちゃくちゃ速いのに……」
「王族の宝石ってだけじゃないね。あれ、多分、本人の技術だよ」
そんな声が、いくつもあがる。
戦場では再びダイヤが脈動しはじめていた。
二度目の自動発動まで、あとわずか──だが、今発動すれば、しばらくは使えなくなる。
トーヤはそれを見てとり、ブーツ(ミア)の出力を制限し、距離をとった。
「ぐ……くっそ、ここまでか……!」
「第三試合、終了──時間切れ。引き分けとする!」
グラントの声が響く。
会場に、拍手が起きた。
どちらが勝者でもおかしくなかった、緊張感のある試合だった。
特にリューエルの受け流しの巧さに、驚きを覚えた者も多い。
試合後、トーヤはリューエルに歩み寄り、拳を軽く差し出した。
「ありがとう。オレ、楽しかった」
リューエルも、小さく笑って拳を合わせる。
「ボクも……君が相手でよかった」
ふたりのやり取りに、仲間たちの拍手が自然と続いた。
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