2日目の異様に静かな夜<<ノゾミ視点>>


ケイタ様が入浴を終えてスイートルームへ戻っていらした時、私は彼の“気”をひと目で察しました。


湯に癒され、心地よく、そして少し――無防備。


その姿を「愛らしい」と思ってしまうのは、私の個人的な感情でしょうか。


「おかえりなさいませ。お身体、少しは軽くなりましたか?」


彼はふっと笑いながら頷いて、ソファへ腰を下ろしました。


その頬のゆるみ、肩の力の抜け具合……ええ、完璧ですわ。


あとは、“眠り”へと導くだけ。


「今夜は、プライベートディナーをご用意いたしました。こちらで、ごゆっくりと」


部屋の奥のテーブルに整えられた料理は、香りも味も“調律”済み。


彼の体内に滞った疲労と熱を、ゆっくり解き放つためのコースです。


前菜に香草を添え、メインには熱を帯びるスパイスを。


そしてデザートで、ほんのり甘い陶酔を。


「……癒されますね、これ」


そう呟いたケイタ様の目が、わずかに潤んでいるのを見逃しませんでした。


「召し上がっている時のお顔、とても穏やかですわ」


真実でした。


“与える側”の喜びに気づいた人間は、こんなにもやわらかい表情になるのだと―


―私は今、確かに感じている。


食後のひととき。


静かなランプの光。


風に揺れるカーテンの向こうには、リゾートの海と夜空。


私はグラスを持って、彼の隣へ腰を下ろしました。


「ケイタ様。今夜はもう、おやすみになりますか?」


少し驚いたような顔をされて、それでも頷いてくださる。


「……お願いします」


その声は、少しだけ熱を含んでいて、でもそれ以上は踏み込まない。


ええ、それでいいのです。


“今はまだ”ですから。


彼の背中に手を添え、肩の筋を軽くほぐす。


そのまま、指を鎖骨のラインへ。


皮膚の上から、彼の体温と鼓動が伝わる。


「緊張していたのですね」


「はい……少し」


「今は、もう……緩めてよろしいのですよ」


そのまま、ベッドまでご案内する。


バスローブは彼が無意識に脱いでくださって、私は薄手の寝間着をそっと掛ける。


ベッドに沈み込むケイタ様。


目を閉じた彼の額に、指を這わせてから――


私は、彼の呼吸に合わせて、ゆっくりと喉元を撫でた。


鎖骨から胸元へ、腹部の手前で止める。


「おやすみなさいませ、ケイタ様」


その声に、彼はわずかに眉を動かし……


けれどもう、深く眠りへと堕ちていった。


呼吸は安定し、まぶたは閉じたまま動かない。


まるで、“すべてから解放された”ような、穏やかな眠り。


……けれど。


本当に、眠っていらっしゃるだけなのでしょうか?


その耳は、まだほんのわずかに熱を帯びていて。


その下腹部は……まるで、誰かに気づいてほしいと訴えているかのよう。


私は指先で彼の髪をそっと撫で、微笑みました。


「ふふ……本気で、眠らせていると思っていらっしゃるのかしら?」


声には出さず、ただその心で、甘く囁く。


眠っていても、体は正直。


夢と現のあいだで、揺れる貴方に――


これから、ゆっくりと刺激を重ねてまいりましょう。


おやすみなさい、ケイタ様。


今宵の夢が、どうか淫らに、甘く染まりますように。



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