第26話 その出会いは運命だったってマ?③《桃谷果林視点》

 それから起こった事は、思い出したくもない。


お母さんの男(名前もうろ覚え。お母さんには確か、きのさんと呼ばれていた。紹介された時に肩に手を置いて来たり、嫌な目で見て来て気持ち悪かった)が家に上がり込んでいるのに、恐怖しかなかった。 


 愛想笑いでやり過ごしつつ、隙を見計らって逃げようとすると、逃げ道を塞がれ奴は淀んだ笑みを浮かべた。

「どうして逃げるんだ? 家族になるんだから、君とも仲良くなりたいな……」


 ガバッ! ドゴッ! ガゴッ!

「キャッ!? いやぁっ! やめてっ!!」


 言うなり周りの物を倒しながら突然押し倒され、ウチは悲鳴を上げた。


「やだっ! 触んな、変態っ!!」

「いてっ! 引っ掻くんじゃねぇ!」

 バシッ!

「キャァッ!」


 服を脱がそうとする相手に必死に抵抗したけど、平手打ちをされて押さえつけられた。


 ジンジンする頬の痛みを感じながら、これから起こるであろう地獄の時間を予感して、固く目を瞑った時……。


『灰谷果林! 契約の事だけじゃなくて、何か困った事があったら、連絡して来いよ?』


 ふいに、小松崎さんの顔が浮かんだ。


「おい、灰谷果林っ!! 大丈夫かっ!?」


 へっ……?


 目を開けると、小松崎さんが、家の中にいて、男に押し倒されているウチを見て大きく目を見開いた。


「あっ。こ、小松崎さっ……」


 え? これ、幻? 死ぬ前に見る走馬灯的な奴??


「な、何だお前はっ!?」


 あれ? 狼狽えているって事は、男にも見えてる?


 再び、小松崎さんに視線を移すと、彼は憤怒の表情を浮かべ、こちらに向かって突進して来た。


「わぁっ!」


 !!


 男をウチから引き剥がし……。



「俺の天使に何をしてやがんだぁっっ!!!!」


 ボスッ!!


「ギャッ!! う〜ん」


 小松崎さんは、男のボディーに勢いよく拳をめり込ませ、奴はあっけなく床にのびた。


 ………!!!!


 音も情景もリアル過ぎる。

 これ、絶対幻じゃない……!!


「こ、小松崎さん……」


 ウチは震える声で彼の名前を呼んだのだった……。


         ✽


 小松崎さんは、ウチが最初に送ったメールを真に受けて忘れたシャーペンをここまで届けに来てくれたところ、異変に気付いて助けに来てくれたのだそうだ。


 襲われたショックでウチも冷静ではなかったけれど、出来る限り詳しく事情を説明した。


 親身になって小松崎さんに話を聞いてもらい、ホッとしてウチは泣いてしまった。


「ふっ。っく……! すごい、怖かった……」

「怖かったな。もう大丈夫だ」


 小松崎さんに肩をポンと叩かれ、温かい手の温もりに、見栄を張る余裕などなくなり、首を振りながら心の内を全て話してしまう。


「う、ううんっ。い、今も怖いっ……。お、お母さんがこの事知ったら、もう、ウチは完全に嫌われちゃって、捨てられちゃうかもっ……」


「バカ! 何言ってんだ? そんなわけねーだろ! 君のお母さんも、大事な娘をこんな目に遭わせるような相手と再婚しようと思っていたなんてって100年の恋も冷めるだろう。これからは君の事をちゃんと守ってくれるよ」


「そ、そう……かなっ」


「ああ。絶対大丈夫だ! この事は、警察に知らせてちゃんと対処してもらおう。」


「う、うんっ」


 力強い小松崎さんの言葉に、流されるように頷きながらも、ウチは、どこかで分かってた。


 そんなに上手くは行かないって……。

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