第20話 天使の忘れ物
その後、俺の天使にしてスターの原石、灰谷果林に、三人組のユニットアイドルの一人として、活動をしてもらいたい旨伝え、ウチの事務所との契約内容に関する書類を渡した。
「ふ〜ん……。思ったよりちゃんとしてそうな事務所かも?」
灰谷果林は、星のチャームのついたシャーペンで俺の説明をメモしながら、感心したように頷いた。
「だから言ったろ? ダンスや歌のレッスン料が心配なら、全額もしくは、半額を事務所が持つ特待生の制度もある。
それでも、まだ、いかがわしい事務所と疑ってるなら、一度親御さんと、キラ星プロの事務所に来てくれないか? 社長や同じ年頃のアイドルの話を聞けば少しは安心してもらえると思うんじゃないかと思うが……」
「う〜ん。というか、ウチの母親、ウチの事心配とかするかな? いかがわしい事務所でも、お金稼げるなら、早く入れって言われそう……」
「いや、流石にそんな事はねーだろよ?」
「いや、あり得るね。最近、ウチの母親、付き合ってる若い男に夢中で、娘にあまり関心ないみたいだし……」
「……」
割と重めの家庭の事情を淡々と話す灰谷果林に、一瞬言葉に詰まった。
俺の前では、あっけらかんとしているが、天使は学校でも家庭でもなかなか厳しい環境に置かれていそうだ。
タレントの中には複雑な家庭事情を抱える者も多いという。大文字社長には、あまり踏み込み過ぎないようにと注意されていた。
「ま、まぁ、家庭の事情はそれぞれかもしれんないが、君は未成年だから、保護者の許可がないと、ウチとは契約出来ないんだ」
「分かった。まぁ、言うだけ言ってみるよ。パフェまで奢って貰ったしね」
ビジネスライクにそう言う俺に、気を悪くした様子もなく、灰谷果林はニパッと笑顔で答え、その後、L◯NE、住所といった個人情報を教えてもらい、店を出て別れる事となった。
去って行く彼女の猫背な後ろ姿はやけに小さく思え、思わずその背に呼びかけてしまった。
「灰谷果林! 契約の事だけじゃなくて、何か困った事があったら、連絡して来いよ?」
彼女は、驚いたようにこちらを振り返り、半目で俺に言い渡す。
「は? おじさん、今のは公私混同のセクハラとみなして、通報していいでしょうか?」
「ああぁ……! 警察だけはご勘弁を!」
やっちまったと膝をつく俺に、彼女は吹き出した。
「フフッ。 冗談だよ! 小松崎さん、ありがと!」
「!//」
金髪のポニーテールを靡かせ、青い目をいたずらっぽく煌めかせ、手を振り、天使な彼女は今度こそ去って行った。
困難な環境にある彼女が、どこかで自分の居場所を見つけられればいいのだが……。
その居場所が、芸能界だというなら、俺は彼女をトップアイドルにする為に、どれだけでも頑張れるぞと、そんな熱い気持ちをたぎらせていた。
取り敢えず、駅前に停めていた車へ戻り、社長にスカウト状況を報告しようと書類に目を通していると……。
シャラン……。
「ん?」
ふと、目の前で銀色のスターのチャームが揺れ、灰谷果林に連絡先を書いてもらった書類に、自分のものでないシャーペンが挟まっている事に気付いた。
「あっちゃ〜! 間違えて持って帰って来ちまったのか?」
すぐに教えてもらった連絡先へメールを送ると……。
『ありゃ〜、ごめんなさい! ウチ、そのシャーペンないと眠れないんだ〜! 悪いんだけど、家まで持って来てくれませんか?』
すぐにそんな返事が帰って来て、俺は苦笑いした。
「枕変わると眠れないってのは、聞いたことあるけど、シャーペンって……。手のかかる天使様だな……」
ここからそれ程遠くなかった灰谷果林の自宅まで車を走らせる事になった。
そして10分後──。
「203号室……。ここでいいんだよな?」
三階建鉄筋作りの集合住宅、エンジェルコーポの2階の突き当たりの部屋の前で、彼女に書いてもらった連絡先の紙と照らし合わせて玄関のチャイムを鳴らそうとすると……。
ドゴッ! ガゴッ!
「いやぁっ! ……めてっ!!」
!??
中で何か激しく争うような物音と悲鳴がして、俺は目を見開いた。
✽あとがき✽
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
一気に緊迫した空気になりますが、次話も見守って下さると有難いです。
今後ともどうかよろしくお願いします。
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