第9話 「初恋のあの人へ生告白♡」〜マネージャー小松崎新の逆プロポーズ〜

 今をときめくアイドルの果林と最近婚約破棄されたばかりのマネージャーの俺。


 そんな対照的な二人のカップルが成立し、スタジオが大いに沸く中、果林と俺は互いに手を繋ぎ笑顔で見つめ合っていたが、その実、目でこんな会話が繰り広げられていた。


「ハハハ!(おい、果林? これは一体どういう事だ? 説明しろ、コラ!)」

「エヘヘ!(ごめんよ、あらっちゃん! 実は本当に謝らなきゃいけないのは、ここからなんだよね……)」


「ん?」


 果林のまだ隠している事があるかのようなバツの悪そうな顔に、嫌な予感がした時……。


「さて、ここに一組の尊いカップルが誕生した訳なんですですが、彼らをぜひ祝福したいという方々と中継が繋がっています。

 まずは、結婚式場「アルテミス」からどうぞ〜っ!」

「へっ? ……!」


 司会の東丸の呼びかけと共に、スタジオに備え付けられたスクリーンに「アルテミス」の字幕と共に白亜の尖塔を持つチャペルが、続いてロビーらしき場所を背景にスーツ姿のミドルエイジの男性と女性がニコニコとこちらに微笑みかけている姿が映し出された。

「「アルテミス」支配人の橘正樹たちばなまさきでございます。」

「「アルテミス」ウェディングプランナーの井堀染子いぼりそめこでございます」

「「小松崎新様、桃谷果林様、この度はカップル成立おめでとうございます!!」」


「支配人さん? 井堀さん?」


 つい先日、婚約破棄の件で迷惑をかけてしまった結婚式場「アルテミス」の支配人の橘さん、担当ウェディングプランナーの井堀さんに画面から祝福の言葉を述べられ、俺は困惑した。


 何故、予約していた式場のスタッフさんと中継繋げられたんだ?


 婚約破棄になり、式はキャンセル。果林のイベントで使うという事で、新たにキラ星プロとして予約をし直した筈だが……。ハッ! まさか……!


 バッと隣の果林を見ると、彼女はこれ以上ないニッコニコの笑顔を浮かべていた。


「んふっ♡」


 この小悪魔め、何か企んでやがるな……! 


「当式場に何度も運んで下さり、小松崎様の誠実なお人柄は存じ上げております。

 それだけに、あのような形になってしまった事を残念に思っておりました……」


 橘さんは、沈痛な面持ちでしばし俯き……、そして一転して明るい表情になり、顔を上げた。


「ですが、今回このように素晴らしいご縁を結ばれたとの事。

 加えて、当式場では、まだ以前予約された時間のまま空きがあります。

 せっかくのご縁でございますし……。

 小松崎様、桃谷果林様、もしよろしければ、同じ日に予定通り結婚式を挙げられましたらいかがでしょうか? スタッフ一同、最大限サービスさせて頂きます!」

「担当はこのまま井堀にして頂けましたら、精一杯サービスさせて頂きます!」


「ぐぼうっ…!!」


 少し予想はしていたものの、画面に映る橘さん、井堀さんにそんな物凄い提案をされ、丁寧に頭を下げられ、俺は目、口、鼻、あらゆる顔の穴から汁を吹きそうになった。


「ええ〜!新さん、どうしよう?///」


 クイクイッ。


 そこへ、可愛らしく俺のシャツの袖を引っ張る果林。


「……!」


 困っている風を装いながら、奴の目は、獲物を仕留める鷹の目のように爛々と輝いていた。


 つまり、これは相談ではなく、催促……!


 婚約破棄された直後、俺に電話をかけて来た果林が、「全部上手く行くよう社長に相談してみる」と言っていた事を思い出した。


 そして、その後、なにやら激しいやり取りがあった末、社長は俺に果林のイベントで使うから式場の予約をそのまま押さえとけと言ったのだった。


 そして、番組内での式場からの突然の提案。


 つまり、これはキラ星プロから式場にこのような形で持ちかけるようにと働きかけがあったとしか思えない。


 とすれば、マネージャーである俺の答えは……?


『ご婚約おめでとうございます!』


『末永くお幸せに!』


『番組内で成婚までいったの、これで10組目です! 視聴率ホントあざっす!』


 再びの鬼気迫る表情のADのカンペから、フライングという名の圧力が加わり、やはり、俺の答えは一択である事を思い知ったのだった。


「あ、ああ! ぜひお願いします! 結婚しよう! 果林!!」

「あらっちゃん♡ はいっ!! 嬉しいっ!!」

 ギュムッ!

「うをっ!」


 俺の答えに果林は涙を流して俺に飛び付き、画面の橘さん&井堀さんはこちらを歓喜の表情で見守り拍手をしていた。


「「ご婚約おめでとうございます! 式の事は全てお任せ下さい。これからも宜しくお願い致します」」


 司会の東丸はスタジオ中に響く大音声を上げた。


「なんと、番組始まって以来、告白成功からの逆プロポーズ成功〜〜っっ!!皆さん、この二人を盛大に祝福してあげて下さい!!」


 わああ〜〜っっ!!

「小松崎さん男前!」

「果林ちゃんおめでとう!」


 番組は大盛り上がり。


 HPを極限まで減らして、俺はやっと自分の役割を果たし終わった。そう思ったのだが……。


「実はですね〜、この番組を小松崎新さんのご家族様全員で見て下さっているそうなんですよ。今、テレビ電話が繋がっていますので、皆様の祝福の声をお届けしますね〜?」


「ほんげっ?!」


 これ以上驚く事などないと思っていたが、東丸に更ににこやかに告げられ、自分でも聞いたことのない間抜けな声が出てしまった。


『『『『果林ちゃん〜! 新〜! 婚約おめでとう〜!』』』』

『フガフガ〜!』

『バブバブ〜!』


「わぁぉ! ママさん! パパさん! みおちゃん&はじめちゃん! 源爺ちゃん! ありがとぉ〜!!」

「な、なんで、家族全員集まってるんだよっ……??!」


 スクリーンにパンチパーマの肝っ玉母さん、ガタイはいいが物静かな大工の父さん、実家の近くに住む父方の源じいちゃん(齢90歳)、隣県に住む妹の澪と抱っこされた甥の始(生後六ヶ月)が、実家の居間に集まり、こちらに手を振っている様子が映し出されていて、家族ぐるみで付き合いのある果林が嬉しそうに画面の皆に手を振る中、俺は愕然とした。


 最初は番組側に果林へ告白への激励のメッセージを伝えると聞かされていた俺は数分だけテレビ出るかもと、おかんに伝えてはいた。だからってこんな全員に注目して見られているとは……?


 もしかしなくても、番組側から家族に知らされていたよな、コレ!


「新が、婚約破棄されて落ち込んでた時はどうなるかと思ったけど、まさか、育てたアイドルの果林ちゃんにする事になるなんてね……! 14の時から知ってるけど、この子はガッツがあるいい子よ〜。大事にしなさいね?」


「(いや、拾われ婚って……!)お、おうよ、 母さん! 俺は果林を何より大事にするぜい!」

「ママさん……! あらっちゃん……!」


「新、苦しい時に寄り添ってくれる女性ひとなんてなかなか見つけられるもんじゃないぞ? 果林ちゃんに感謝して、甘えるばっかりじゃなくて、ちゃんと支えてあげるんだぞ?」


「お、おう! 父さん! マネージャーとして男として、これからは果林を支えていくぜっ!」

「「パパさん……! あらっちゃん……!」」


「私は、お兄が最終的に結ばれる相手は果林ちゃんだと思ってたよ! 本当によかった!

 始のベビーグッズ、成長してもしばらく取っておくから、使う時はいつでも言ってね〜?」


「み、澪、何言ってんだ! 気が早すぎんだろ!///」

「澪ちゃん、ありがと〜! 嬉しい♡」


「フガフガフガガ……! フガガ……?」

「いや、じいちゃん、この子は聖◯ちゃんじゃなくてルミナス☆ミの果林! 俺は親友の清じいちゃんじゃなくて、孫の新だから!」 


「(あらっちゃん言ってる事分かるんだ、すごい!)源じいちゃん、またご挨拶に行きますね〜!」


「バブバブ、バ〜??」

「お〜、始くん、大きくなったでちゅね〜。いないいないバオバブ〜!!」


「キャッキャッキャッ!」

「始くん、可愛い〜♡ 今度、会いに行くからね〜」


 謎の家族団欒を繰り広げる羽目になったその後も、出演者の質問コーナーで、果林と俺との今までのエピソードを根掘り葉掘り聞かれ、番組が用意した仮の指輪を果林の指に嵌めさせられたりしたが、番組の後半はほとんど記憶にない。


 ただ、昨今、テレビ視聴率が低迷傾向にある中、この回の「初恋のあの人へ生告白♡」視聴率は、21.6%、俺が果林に逆プロポーズをした場面での瞬間視聴率は、28.9%にも及ぶ高視聴率だったとお伝えしておこう。


 番組スタッフが大歓喜だった事は言うまでもない……。





✽あとがき✽


読んで下さりありがとうございます!

カクヨムコンランキング ラブコメ・美少女部門 24位 総合 95位になれました!

応援して下さった読者様に感謝の気持ちでいっぱいです✨(;_;)✨

本当にありがとうございます!


次話は間男&元婚約者サイドの話になります。

今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m

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