第3話 式場スタッフの気遣いとタイムリーに流れる曲
婚約破棄され、もうこの式場を利用出来なくなったにも関わらず、式場のスタッフさんは優しかった。
「小松崎様、どうぞこちらに」
「大丈夫でございますか?よければお召し上がり下さいませ」
「す、すいません……。」
支配人の橘さんは、俺を別室の席に案内し、ウエディングプランナーの井堀さんは俺を別室に案内し、気遣わしげな様子で飲み物のおかわりを持って来てくれた。
「先程は騒ぎを起こしてしまいスタッフの皆さんや他のお客さんに不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。ご覧頂いた通り、彼女との結婚はなくなりましたので、こちらの式場をキャンセルさせて頂きたく……。いや、本当に申し訳ないです……」
声を絞り出すようにしてそう言い、二人に頭を下げた。
今まで俺達の希望に沿うよう、式場のスタッフさん達は、一生懸命結婚プランを考えてくれていたというのに、彼女は暴言を吐き、婚約破棄劇を繰り広げ、結局式をキャンセルするという迷惑をかけるだけの結果になってしまった事が申し訳なく、遣り切れなかった。
橘さんと井堀さんは神妙な顔を見合わせ、俺に告げた。
「いえ、こちらこそ、新婦様のお気に召すプランを提案出来ず、大変申し訳ありませんでした。お急ぎでなかったら、キャンセルの手続きは、少しこちらで休まれてからになさったらどうでしょうか?」
「ええ。大分お顔の色が悪いようですので、ぜひ休まれていって下さい。
お気を落とさずに……というのは、無理でしょうが、小松崎様、どうかお気を確かにお持ち下さいね。何かありましたらお呼び下さい」
「あ、ありがとうございます……」
橘さんと井堀さんは心配げにそう声をかけると俺を一人にしてくれた。
彼らの心配りが胸に沁み、とにかく、落ち着かなければと震える手を握り込み、ふと、顔を上げると、壁に備え付けられいる鏡に顔面蒼白で血走った目をカッと見開いた男が映っていた。
「うわ。ゾンビかよ! 俺!」
こんなにひどい顔をしていたのか。スタッフさんに休んで落ち着けと言われるわけだわ。営業職にあるまじき失態にため息をつくと同時に現実が肩に重くのしかかって来る。
『芸能プロダクションのマネージャーやってるっていうから、どんだけ儲かってるかと思えば、ホントケチ臭いし、忙しくて会ってもくれないし最低』
「あんな風に思っていたのかよっ……」
忙しい最中に、少しでも取れた時間は全て彼女に捧げ、趣向を凝らして記念になるようなデートを企画して、彼女も笑顔でいつもありがとうと言ってくれていたから、喜んでくれているものと思っていた。
ここの式場は大規模とはいえないが、料理も式場のデザインも、何よりスタッフの人の心配りが素晴らしいところを二人で選んだ筈だった。
それなのにっ……。
『実は、私、数日前から他の人とお付き合いしているの。イケメンで有名実業家のその人と、もっと規模の大きい式場で、沢山人を読んで派手に結婚式をあげるわ』
「浮気……してたのかよっ……! しかも、俺とは1年前から付き合っていたのに数日付き合っただけのイケメン実業家にあっさり乗り換えるとかっ……、あり得ないだろうっ!」
強い衝撃と怒りに、俺は血が出るほど拳を握り締めた。
『300万円あるから、それで私の事は綺麗さっぱり諦めて? 新さん、さようなら。 式場のキャンセル料を引いた残りのお金で結婚出来る程度の、あなたにお似合いの相手が見つけかるといいわね?』
こちらを蔑み嘲るような表情で札束を叩きつけ、ひどい言葉と共に別れを告げた彼女を思い出す。あれが彼女の本性か?
俺が愛しいと思っていた、穏やかで優しい笑顔の彼女は偽物だったのだろうか?
友達の紹介での彼女との出会い。海辺のデート。フランス料理店でのプロポーズ。
今までの二人の積み重ねは何だったのかと虚しく遣る瀬無い気持ちになっていたところに……。
チャラッチャララ♪ チャラッチャララ♪
「!」
『ルミナス☆ミ』のデビュー曲、「元気だしてね、マイダーリン」の着信音が流れ、スマホを確認すると、着信元は桃谷果林と表示されていた。
✽あとがき✽
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