第5話 事後

「……ふぅ、流石に色々と疲れったすね。旦那サマ、ちょっと身体失礼しますね」


 ぐったりと疲れ、と汚れた身体を旦那サマに預ける。

 異世界、あるいはダンジョンマスター等のテンプレであるポイントだとかそれによる購入の機能を使い、買った安物のマットレスで、しかも相手が人外で処女を散らすとは思っていなかった。


 残念ながら私はTS、つまりは性転換した身であるから女性の気持ちや細やかな感覚は分からない。

 故に世の女性の処女の散らし所がどこかは不明だが、流石にこのシチュエーションは性別関係なく歓迎し難いとは思う。


「TSした場合って同性愛なんスかね?ま、もうヤッた後っすけど」


 二日目でもはや少し見慣れたステータスやダンジョンマップ、通知欄が表示されたホログラムからポイントを使ってアメニティ用品を購入しつつ何気ない会話をする。


 旦那サマは気にならないのか、それともどっちでもいいのか、私の胸にその節くれだち、歪な七本の指を添えた。


「んっ……なんスか旦那サマ。もぅ、男はこんな立派なサイズの胸してないって言いたいんスか?ふふん」


 最初こそ不安と罪悪感とでいっぱいいっぱいだった私だが、旦那サマは以外にも優しい手つきで私を導いてくれたおかげで安心してそれなりに楽しめた。


 加えて、身体を重ねその結果が満足のいくものだったのもあり私の旦那サマへの心理的抵抗や恐怖、印象などが良好なものへと変わったのもあり、こうして安心して身体を預けるなんて事も出来るようになった。


 人間など単純な部分が大部分を占めている。苦痛には嫌悪を、そして快感には好意的な感情を抱くものだ。

 なれば旦那サマとの行為が満足のいく、十分に快楽を感じれるものだった場合、私が旦那サマに好意を感じ始めるのも無理からぬ事だ。


 旦那サマと私の身体を一通り綺麗にし終え、残存ポイントを見る。


 侵入者たる三人の死によって増えたそれは先程購入したアメニティ用品やその他の日用品、食料の類から推測するに普通に生活して一週間は保つだろう。と推測ではあるが考えれる。


「殺した時しかポイントが入らないのか、それともダンジョン内でのあらゆる活動がポイントに繋がるのか分かんないのが難点っすね」


 と言うか、現状分かってる事の方が少ない。


 溜息と共に立ち上が……ろうとして股間に違和感を感じて妙な姿勢で止まってしまった。

 ま、まだ旦那サマのが入ってる感覚する……!


「んぐっ……痛い。あぁ、大丈夫っすよ旦那サマ。初めてだったんで違和感があるだけっす」


 私を気遣うように肩を抱く旦那サマに問題無いと返す。


「あはは、心配しすぎっすよ。旦那サマのがそんなにおっきくなかったので痛みも無かったすから」


 私がそう言って心配ないと伝えると旦那サマが大きく口を開けて固まってしまった。


 何か気に障るような事を言ってしまっただろうか?


「……?どしたっすか?」


 旦那サマは普段とは違ってゆったりと首を左右に振ってなんでもないと伝え、洞窟の隅に座り込んでしまった。


 旦那サマ本人が大丈夫って言ってるならいいすかね?

 私はそう判断して改めてちゃんと立ち上がる。


「さて……と。ふぅ、私のスキルとかってこれ詳しく見れるんすかね?」


 やるべき事、もといヤるべき事も終えた私はホログラムに確認不足や見逃した項目等が無いか見ていく。


 ヘルプとか効果説明とか……そういうの無いんすかね?


「あ……これ長押しで説明出るんすか」


 文面でも十分に察する事は出来る。が、やはり詳しい説明が見れるならそれに越したことはない。


「んー……?痛みに対する耐性は……あぁ、これ痛覚遮断的なんすねこれ。んで再生能力は魔力消費……魔力ってなんすか。私にもある?」


 この二つはいいのだ。問題、というか一番知りたいのは完璧且つ最適な母胎、と名付けられているこのスキルだ。


「さてさて、どうっすかね?」


 敢えて口に出し、ホログラムに映るスキルをタップする。


 音もなくホログラム全体に読みやすい大文字でスキル説明が表示される。


       【完璧且つ最適な母胎】

 あらゆる生命体との性交を行う際にいかなる障害や問題を発生させず、確実に孕み、一度でその生命体が出産可能な最大数を出産する。

 妊娠・出産期間は交尾相手の生命体に依存する。


「ふむふむ……スキル自体は分かったっすけど、これ結局旦那サマの生態が分かんなきゃどれくらいで私の妊娠期間が終わるか分かんないっすね」


 どこかに旦那サマの生態について詳しい説明はないだろうか?


 私?私は宛にならん。そもそもスキルのお蔭で問題なく旦那サマと性行為が出来ただけであって、本来旦那サマの種族のメスとオスで交尾するのが通常、なはずだ。

 よほど特殊な生態サイクルをしていなければ。


 というか旦那サマはこの世界にちゃんと同種がいる生物なのだろうか?


 人間三人を有利な地形や奇襲といった策で殺したとはいえ無傷で勝利する以上、そこそこに強い種なのだろうと思うが。

 弱い生き物ほど多産で妊娠期間も短い。うさぎやネズミ、もっと小さなもので言えば虫の類はその数は夥しい。


 出来れば早く出産したいな。数は力で、今はその力を持っていない状態っすから。


 暫くは旦那サマ一人に負担を強いる形になってしまう。その状態を一刻も早く解消したいのだが……こればかりは待つしかない。


「まぁあんだけの回数ヤったんなら出来てるでしょ」


 数日以内に出産したいが、したくもない。


 出産までの期間が短ければ短い程旦那サマの種族が生態ピラミッドの下層に位置する事になる。

 されど早く出産出来なければ旦那サマたった一人でダンジョンの防衛を任せる形になってしまう。


 なんともジレンマだ。


「せめて体裁だけは楽観的で冷静にいようしてるっすけど……結構キツイっすね、はは」


 声が震えるのを必死に抑える。


 分からない事だらけで、侵入者の襲撃がいつ来るか、何人来るか分からず、安定とは程遠く……。


 あぁ……ダメダメ。こんなんじゃ。私は旦那サマの妻でダンジョンマスター。


 理屈では分かっている。泣いた所でどうにもならぬ、そんな暇があるなら一秒でも多く思考を回すべきだと。


「いっそ快楽に依存とかした方が精神的には楽っすかね?」


 だがそれは私にとっても旦那サマにとっても良くない。

 自己の確立を他者に委ねるのは論外中の論外だ。

 それに情緒や感情の不安定は子供だけの特権であり、いい年をした男女がそのような真似をするべきではない。


 なにより定期的に不安定になる妻など害悪でしか無い。旦那サマの負担になる事は避けねばならない。


 危ない思考に行きかけたのを自覚した私は旦那サマに密着する事でなんとか精神の均衡を保とうとする。


「とりあえず、これからどうしましょっか。旦那サマ?」

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