炎天下のいちごミルク

鷹野ツミ

下校中

「まだ告白してないんだー?」

 私の問いかけに、清水くんはいちごミルクを口の端からこぼした。自動販売機はつめた〜いの表記で埋め尽くされている。

「タイミングがな、ないんだよ」

 口元を手の甲で拭って、私にペットボトルを押し付けてくる。安っぽくて人工甘味料の味がするいちごミルク。清水くんがこれを買うようになったのは、彼の好きな子が最近よく飲んでるよって話をしてからだ。甘い物苦手なくせに頑張っちゃって可愛い。

「のんびりしてると、他の人にとられちゃうかもね? ほら、私とかに」

 受け取ったいちごミルクを飲みつつ、落ちたセミを踏まないように歩きつつ挑発してみる。

「はあ? お前女じゃん。イマドキだな。ゆずらねえけど」

 冗談だよって笑うと近くのセミが同調したように鳴き始めた。私は更に挑発を続ける。

「ゆずらねえ、なんてかっこいいじゃん。でもね、私の方が優勢だよ圧倒的に。だってキスしちゃったもん」

「はあ!?」

 切れ長の目を見開く清水くんは可愛い。圧倒的に。

「間接キスだけどね」

 私がカバンから空のいちごミルクを取り出して見せれば、「そんなのノーカンだ」と呆れた顔をされた。

 私はここでトドメを指しにいく。

「えー、ノーカンなんだ?」

 受け取ったいちごミルクと空のいちごミルクを両手に持ち、わざとらしく清水くんの顔の目の前にかざした。

「私はいま清水くんと間接キスをして、ちょっと前にあの子と間接キスをした。つまり、私を挟んでお二人さんはキスしたってことになるんだよね」

「なっ……変なこと言うな!」

 あらあらまあまあ。そんなに赤くなっちゃって。清水くんって本当に可愛い。

 あの子に告白する勇気が全然ないってところも可愛い。あの子と私が話したことないって知らないところも可愛い。あの子がいちごミルクなんて飲まないって知らないところも可愛い。

 清水くんは、クラスでモテるあの子と一発やれたら友達に自慢できるなってぼんやり思ってるだけ。だってなんにも知らないから。

 普通好きな人のことなら、なんでも知ってるでしょ? ほら、私みたいに。

 清水くんが朝何時に登校して、何時に下校するのか、なんて話しかければ食いついてくるのか、どうすれば安心できる存在として認識してもらえるのか。好きな人のことを想えばなんでも知ってるのは当たり前なんだよ。

 こうやって、自然に清水くんの近くにいることで、周りは私たちが恋人同士だって勘違いする。噂が広まって清水くんは否定して違うよなって私に確認してくるの。そのときが清水くんを手に入れられる瞬間かな。

 もうすぐ間接キスよりも先にいけるって考えると、体温がぐっと上がって太陽の熱にくらっとする。いちごミルクが口の中で粘ついて甘さがまとわりついてくる。

「ほら、私もう飲めないから残り飲んじゃってよ」

「……おう」

 清水くんは若干ためらって、でも暑さに勝てなくてひと口。

 めちゃくちゃ意識しちゃってるね。清水くんって本当に可愛い。

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