放り投げた
悪本不真面目(アクモトフマジメ)
第1話
春風が心地よく口笛なんぞを吹いて思わずスキップをするほど私の機嫌はすこぶるよかった。
「ゴン!」
頭に直撃を食らった。私の坊主頭から血が流れ石は私を撫でるように滑り落ちていった。石には血がべったりついた。私は片膝をつきながらは頭を手で押さえるがなんとも気持ち悪かったので、血のついた石を拾いそれで頭を冷やす。そんな慰め程度だが、少し気分が落ち着く。
フラフラとさっきまでの世界と画風が変わる。私は怒りと悲しさと不安定さとその他もろもろとあらゆる感情がまざり混沌へと堕ちていた。
私は石が飛んできた方を見る。つまりは真正面だ。私は俯いていた顔をゆっくり上げ真正面を見る。それは遠くの場所なのに、何故か近くにあるように見えた。
男だ。男が一人いる。猫背の。その男は手に石を持っていた。そこらへんで拾ったものだろう。それをどこかへと投げる。投げるとよりかは放り投げた。
男の目を見ようとすると、ズームになりよく見えた。私の抑えている石から、ぬちゃあという柔らかい音が聞こえた。寒気がする。ますます、分からなくなっていく。
男の目玉には何も描かれていなかった。私はそれを無気力と解釈をした。そして再び男の全体図に目を向けると、良い感じにそう見える。やはり本来の距離よりも近くに感じる。
脳が春風にあたる。今では春風は敵だ。
男は石を放り投げ続けた、脱力した腕をただ上から下へと落とし、そして持っていた石を放棄する。まさしく放り投げるだ。これを理想的とすら感じた私は、まるで彼のファンにもなったかのような錯覚に納得がいかなかった。
男は石だけでなく、自分の履いている靴も放り投げた。左足の靴で右は放り投げなかった。なのでアンバランスな状態だ。それに対する反応は何もない。
相変わらず男の目玉には何も描れていない。
男は棒を放り投げた。男は箱を放り投げた。男はボールを放り投げた。男はポストを放り投げた。男は車を放り投げた。放棄されたものはたくさんの人に当たった。
しかし私の目にはそれはリアルとして映し出されず、いい加減に省略されて見えた。当たった瞬間、本来なら血が出て骨が折れたり、臓器破裂、ぐちゃぐちゃなグロテスクな光景だったろう。だが私の目には当たった場所が消しゴムで消されたように消えて見えるだけだった。
これは男の凄さではなく私の凄さだ。次々と人かどうかの判断もつかず人の部分が半分以上消えていく。もはや何かにしか見えなかった。それに名前を付けられるほど私は余裕がなく吐き気がする。
男は放り投げ続け、大勢に当たり続けた。男の放り投げるに人は成す術がないように感じた。
男はたまたま手に届くところにあたっからという理由だろう、いやそもそも理由なんてないのだろう。人を掴み、放り投げた。
すると彼の放り投げた方向と反対方向から人か飛んでくる。人と人がぶつかり、私の目にはアメリカのアニメのカートゥンのようなデフォルメされた光景に見え、人と人はぶつかるとガラス細工のようにパリーンとコミカルに割れた。
私の頭を抑えている石の下にある柔らかいものが脈を激しく打ちだした。興奮をしている。春風はそれを冷まそうとして吹いているつもりだが、ただ不快でしかなかった。
別方向に飛んで行った方に目をやると、もう一人猫背の男がいた。男とはコミュニケーションがとれる範囲からは随分離れていた。彼の目も何も描かれていなかった。
二人の放り投げるがぶつかり、人と人を割っていく。私の目にはカートゥーンのようにコミカルにうつるが、むしろそのデフォルメの方が本質をついているように思えた。
彼らの目的のない狂気。
せめて何か爆発でも起きれば、希望を感じるというのに。彼らの行動は破壊しかなかった。それは破壊を生むではなく、破壊だ。純粋破壊とでもいうのだろうか。彼らは放り投げるように人を放り投げる。
私は彼らを右目と左目で一人ずつ捉えることができた。二画面の状態だ。私は手に届く位置にはいない、こんなに近くに見えるというのに。
頭の中の柔らかいものが頭を押さえていた血のついた石と一つになろうとしていた。私はこれ以上付き合う必要はなかった。春風が何かを言いたかったようだが、耳を傾ける必要を感じなかった。
私はこの気持ち悪い石を投げようと思った。放り投げるではなくてだ。グラグラと動く回る。本当に地球は回っているんだろ分からされている気分だ。いやそれよりも洗濯機に入れられたネズミの気分だ。何故ネズミだ?そんな映画を昔観たからか?そういえば頭がありえない痛さを持ってくる。
そんな景色の中、アンバランスな男を見るとむしろ彼にお似合いに思えた。この光景が。もう一人の男もよく見ると片方靴がなかった。だんだんチェンネルが勝手に変わっていくように視界の乱れがますます激しくなる。それは編集とかではなく概念から変わろうとされてるようだった。
私の意識はどんどん遠のき、今見える光景とは別に黒く暗い場所がうっすらと見えてくる。終わりが近い。私は意識朦朧としている中、ついに石を投げた。これが二人に当たれば一石二鳥だなと少し楽しみだったが、石の距離は二人には足りず墜落をしてしまう。私はその墜落を見届け後すぐ倒れ、そのまま私は私を放り投げてしまった。そう考えると彼らは本当に放り投げていたのだろうか?本当は投げていたのではと疑問が残った。
放り投げた 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615
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