第2話 聖女様は魔女様?
翌日からもセシリアはよく働いた。回復魔法を難民だけでなく騎士にも使い、疲れた彼らを癒して回った。
膨れ上がった難民は王国の使者たちに連れられて国中の難民居住地へと連れて行かれる。彼らはセシリア始めテレントたちに助けられた恩を忘れることなく、数日後には感謝の言葉が綴られた手紙が子爵邸へと次々と届いた。
そして誰もがセシリアを聖女だと崇め、セシリア本人も自分が聖女でなければいけないのだと気を張っている。
「なあセシリア......セシリア?」
「す、すみません! どうされましたかテレント様?」
「疲れているのなら休んだ方がいい。魔法を何日も使い続ければ君が倒れてしまう」
小さな部屋で2人きりだというのに、セシリアの反応が遅れる。
テレントは心の底から心配していた。ここ数日常に近くでセシリアを見ていたからこそ、そして彼の心にセシリアへの特別な感情が芽生えていたからこそ、彼女を労わりたいと心の底から考えていた。
「私は大丈夫です! 皆さんが支えてくださっていますし......テレント様が隣にいてくださるから」
微笑んだセシリアに笑顔を返すテレント。
無理だけはしてくれるなよ。そう言い残してテレントは部屋を出た。
執務室へ戻ることとしようか。明日からもするべき事は多いのだからな。
『テレント様が隣にいてくださるから』
無邪気な笑顔と嬉しい言葉が何度も頭を駆け巡る。
静かな廊下に響くテレントの靴音。その後ろから、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「テレント様。王宮より急ぎの手紙です」
走ってきた内政官から厳重に封をされた一通の手紙を受け取る。ふたり並列で歩きながら炎魔法で封に使われていた小型封魔法陣を溶かして開けた。
丁寧に折り畳まれた文書を開き、内容に目を通す。
『件の魔女はヴァスリドス子爵殿が侍らせていると噂の修道女であると我々は判断した。翌朝日の出とともに王国騎士団が子爵邸に到着する。修道女が逃げないよう見張り、速やかに引き渡せ』
......セシリアが、魔女だと?
膝から崩れ落ちるテレント。内政官は落ちた手紙を拾い上げてさっと目を通す。そして、一目散に騎士の控え室へと歩き出した。
「待て! 待ってくれ......何かの間違いだ。お前もそう思うだろ?」
テレントの言葉に内政官はしばし逡巡して言い放つ。
「信じたくはないですが、それが王国の判断です。今は従うしかないかと」
無情にも走り去る内政官を、テレントはただ見送ることしかできなかった。
内政官から出回った情報は
テレントのもとには家臣が集まり、放心したテレントを必死になって元気づけていた。
そうしている間にも朝日が昇る。
「わかった。セシリアと話をさせてくれ」
「テレント様、王国が魔女と認めた者と親密になってしまっては貴方様のお命が・・・・・・」
魔女と関わらないのが賢明な判断であることなんてテレントも知っていた。
しかし―――
「では彼女に、セシリアに助けてもらった恩はすべて捨て去るとでも? 外を見ろ。王国は交渉の余地すら与えずにセシリアを殺す。そんなことは許さない」
温厚なテレントが初めて見せた怒りに、内政官も家臣も全員が黙り込む。
その中心を突っ切ってテレントはセシリアの元へと急いだ。
「おはようございますテレント様。昨夜からなんだか騒がしくて、早起きしちゃいました」
頭のてっぺんに寝癖を立て、いつも通りのセシリア。魔女ならばこの窮地を察知して逃げるに決まっている。絶対にそうだ。
テレントは意を決し、セシリアに問いかけた。
「セシリアは......魔女なのか?」
刹那、セシリアの金色の瞳が大きく見開く。小さな体がしきりに震えだし、怯えたように口を開いた。
「違うのです。私は...私はそんなつもりでは」
「どういう意味なのだ? 俺はセシリアを信じている。だから話してくれ」
震える体。怯えた顔。思い出したくないことを思い出してしまったように固まるセシリア。テレントはそんなセシリアを、優しく抱きしめた。
セシリアは息を整えて、テレントの胸の中で彼女の見た真実を語り出す。
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