全ての始まりは十個のリンゴだった

東京卑弥呼

第1話 ユウマ

ユウマは執政十家の一家、ガリム家の農民としてガリム家が所有する荘園で働いていた。

ユウマは十四歳とまだ子供。

ユウマの家はユウマと病床の母、レイアの二人暮らし。

荘園で働くのはみな下級身分。ユウマもまた下級身分の子。ユウマは大人たちに交じって働いていた。

農民たちは荘園責任者がいなくなるとよく愚痴を言った。

「ああ、俺たちはいつまで働かなければいけないんだ」

「死ぬまでにきまってるだろう」

「ほんと、夢も希望もないな」

「仕方ねぇだろ。俺たちには何もないんだ」

「諦めるんだな」

「あんまりユウマの前で愚痴るな。ユウマはこれからずっとここで死ぬまで働くんだ。まだまだ長いぞ~」

「ユウマが大人になる頃にはこの国も変わってればいいけどな」

「変わるわけねぇだろ!」

「俺たちは持たざる者なんだ」

ユウマは大人たちの愚痴話に加わることはなかった。ユウマは働くことを苦には思っていなかった。ユウマは働いて働いて、母に精がつくものを食べさせたかった。一日も早く元気になって欲しかった。それ一心にユウマは働いた。それがユウマの切なる願いだった。


ユウマは一日の作業を終え、帰り支度を済ませ、荘園の門のところまでやってきた。

「ユウマ、もう終わったの?」

ユウマに声をかけてきたのはユウマと同い年でガリム家の令嬢、エリスだった。身分は違えどエリスはユウマと友達だった。

「これはこれはエリス様。今日は何か?」荘園責任者がエリスに気が付き声をかけてきた。

「なんでもないわ」

「お疲れさまでした」ユウマは荘園責任者に挨拶して荘園を出た。エリスもユウマの後をついていった。

「ユウマ!」

ユウマはエリスを見た。するとエリスの後をついてきたのか、離れたところにレナトがいることに気が付いた。

レナトは執政十家を取り巻く上級身分の子。

ユウマはレナトを見てからエリスに言った。

「ほら、エリスのことが心配で彼氏が来てるよ」

エリスはユウマの視線の先にいるレナトを見た。エリスはため息をついた。

「変なこと言わないでよ。彼氏でもなんでもないんだから」

「そんなこと言うなよ。レナトが可哀そうだよ」

エリスはレナトに向かって言った。

「レナト、いい加減ついてこないで!」

エリスは当てつけにユウマの腕に手を回した。

「よせよ!」

「いいの。こうでもしないといつまでもついてくるから」

「それだけエリスのことが好きなんだよ」

「じゃぁ、ユウマは?」

「え?」

「ユウマは誰が好きなの?」

「俺は」

「俺は何?」

「そんなのいないよ。それより早く帰って夕飯作らないといけないんだ」

「ユウマはママが好きなのね」

ユウマは黙った。

「マザコン」

「別にいいだろ!」

ユウマはエリスの手を解いて一人家路についた。

エリスはユウマの姿を頬を膨らませて見送った。



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