エイプリルフールに愛を叫ぶ

遥 述ベル

好きで仕方がない

 私、南加子みなみかこには恋人がいる。

 時川勝ときかわまさるくんだ。


 私はいつも好きな気持ちが溢れてきて「好き」としか言えない。


「勝くん、好きー。好きで好き!」

「なあ、加子。もっと言葉ないの?」

 最初の頃は笑ってからかわれた。

 そこに嫌味なんてなくて、お互い心地よかった。


 それなのに10ヶ月経った今では──。

「勝くん、好き。大好き!」

「好き好きうるさい」

「でも好き」

 スマホゲームにしか目線がいかない彼。

 挙句の果てに返事がない。

 私は愛が足りないのだと思った。

「大好きなのー!」

「日本語通じないのか?」

 私も分かっている。この関係性が危ういことくらい。

 でも、私にできることは彼に尽くすことだけ。

 家事も全部やっているし、彼も私の料理が好き。

 食事に行ったら割り勘するし、私も将来のために必死に働いている。彼を支えたい。

 彼の不満は一つだけ。私の愛情表現の少なさだ。

 でも、好きとしか言えない。だって大好きだから。

 勝くんのためにできることを全てしたいと思うと、言葉はそれしか出てこない。

 こんな私と一緒にいてくれる彼には感謝しかない。

 だから──。

「勝くん、好きだよ」

 ダメなのに。もっと他に言えることがあるはずなのに。

「なあ、加子。別れよう」

 そう言われる準備はできていた。



「嫌だ別れたくない」

 そんなの嘘だった。


「私は勝くんしか受け入れてくれる人がいないの。あなたじゃないと私は生きていけない。ずっと傍にいたいの。好き以上のものが出てこないくらいに愛してる。私の旦那さんになってくれなきゃ嫌だ。私をまた真っ直ぐに見てよ。かっこいい所も可愛い所も私だけに見せてよ」

 私は泣きながらも彼を真っ直ぐに見た。

 彼の表情は涙でよく分からない。

「ごめんな。エイプリルフールだよ……。今日4月1日。効果絶大だったな。好き以外も言えるじゃん。俺も好きだよ。結婚しよう」

 私は何が起こったか分からなかった。

 でも、勝くんに抱きしめられて全て知った。

「ありがとう。大好き!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エイプリルフールに愛を叫ぶ 遥 述ベル @haruka_noberunovel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説