あの日と同じ雪 (high sensibility)

春嵐

あの日と同じ雪

 付き合っていた男が、死んだ。ここで。


 あのときは、まだ学校に通ってて。人間関係が嫌で、あんまり目立たないような男を見繕って。付き合ってた。


 真面目が板についたような、ばかな男で。夏休みの宿題はちゃんと毎日やるし。予習も宿題も欠かさないし。そのくせ、特にこちらの行動を縛ったり神経質だったりもしない。職人気質でもない。頭は良くないみたいで、成績は常にわたし以下。わたし勉強してないけど。


 寡黙。それが彼。


 そんな彼が、ここで死んだ。死ぬ前に、一緒に帰った。そのときここを通って、一言だけ、雪だ、って言ってた。


 夏なのに。


 今。死にかけて、彼が死んだ場所と同じところにうずくまっている。撃たれた。一応、手で押さえてはいるけど、血は止まらないので、たぶん死ぬ。


 彼が死んで。なんか興味が失せて、学校に行くのをやめた。頭が良いのに学校に行くのをやめたやつの末路は、普通に悲惨。わたしもその例に漏れず、今こうやって撃たれて倒れてる。


 何かを間違えたとは、思わない。彼が死んだ理由が、なぜここで死んだのか、雪ってなんだったのか。それだけを考える日々だった。


 手の感覚も、身体の感覚もない。ふわふわして、それでいて、重い。血が抜けていってるからかも。


 ちょっとだけ、がんばって。


 仰向けになってみる。血が流れる感覚。あんまりない。そのかわりに、動けば動くほど、いのちが消えていく感覚がある。ゲームの、毒状態とかで体力がじわじわ減っていく、あんな感じの。


「あぁ」


 雪。


 雪だ。


 ビルの窓に当たった光が。乱反射して、他のビルにぶつかって。ちらちらと光って、ゆっくり、流れていく。


 雪だね。


 ごめんね。


 気付いてあげられなくて。


 なんとなく、あのときの彼のことが。分かった。


 わたしに、見せたかったんだ。これを。でもなんて言っていいか分からなくて。わたしが帰ったあと、ひとりでここに戻ってきて。そこで自分の不器用さに呆れて。死んじゃったんだね。ごめんね。気付いてあげられなくて。ごめん。付き合ってたのにね。


 綺麗。


 綺麗だったのに。


 曇っていく。光が消えていく。雪が。きらきらと滅びていく。


 少し経って。目が見えないだけだと気付いた。見えないや。ここに、目の前に。死がある。天国で彼に会えるかなとか思ったけど。


 ただ暗いだけだった。


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