母の愛
「いや、俺たちが行こうとしてたトンネルよりよっぽど不気味やん」
崖に続く山道を車で行けるとこまで行き、降りると1番行きたがっていたはずの蓮が怖がるように言った。たしかに元々行こうとしていた廃トンネルは、全く統一性のない幽霊の目撃談が多くあるだけだが、真奈が教えてくれた崖は自殺スポットという現実感にどこか普通の自殺スポットにしてはおかしいところがあるという不気味さを感じさせる。
「どうするこれ、トンネルは1人で行く予定だったけど」
「いや山道を1人で行くのは危ないから、2人組で行こう」
組み合わせはじゃんけんの結果、九賀と蓮、僕と真奈になった。
「身投げの崖まで行ったら、ここまで戻ってくる。そしたら次の組が行くでいいな?」
九賀が確認を取り、みんなが同意すると先に行くことになっている僕と真奈のペアで暗い山道を進み出す。
歩き出す出すと山道などと言っているが、ほとんど獣道のような荒れた道であり、進み出すごとに険しさも増していく。
真夜中の山中というものはどこかに何かが潜んでいても分からないという、本能に訴えかける不気味さを醸し出している。
ただの木々のざわめきや虫の鳴き声ですら何かがいるのではないのかと思わせる。
だが、真奈はまったく物怖じしていないようにどんどん進んでいく。
普段の彼女のイメージとは真逆で、驚きを感じる。
「すごいね、真奈ちゃん、怖いの苦手だったのにそんなどんどん行って」
「なんで、私が怖いの苦手って思うんですか」
「え?なんでってそりゃ、今までの高校のときとか怖いの苦手ってよく言ってたから」
「そんな事、ありましたか」
「いくらでもあったじゃん。例えばみんなで頑張って遠出して話題のホラー映画見に行ったときとかも苦手って⋯……あれ?よく考えると真奈ちゃんいなかったな」
おかしい、真奈が怖いものな苦手だと思っている理由になっていた思い出すべてによく考えると彼女は存在しない。なんで僕は彼女が怖いものが苦手だと思っていたんだ。
「というか、あなたは、私の何を知っているの」
「何をって、色々だよ遅刻魔な所とか、抜けてる所とか………………?」
いや、ない、すべてない、彼女に対してのイメージが作り上げられた理由になる思い出、すべてが、よく考えるとそこに彼女はいない。
分からない。分からない。いったいどういうことだ。彼女に関する思い出すべてが、本当は存在しないはずのものだった。
じゃあいったい、彼女は誰なんだ。彼女は真奈で、友人で、同級生だったんじゃないのか。
「私は本当に、あなたの友達で、クラスメイトでしたか」
違う、こいつは友達でもクラスメイトでもない。こんなやつ高校にはいなかった。
「お前は誰だ」
「そんなことどうでもいいでしょ、それより早くいきましょう」
彼女が笑顔でそういう。気づくと僕は崖端に立っていた。一歩先は底が見通せないほどの高さだ。落ちれば間違いなく、即死するだろう。
ここを離れるべきだ。
逃げるべきだ。
だが足が動かない。
いや、正確には動かせるのだが、動く気にならないのだ。
というより動く必要はあるのだろうか?
今の僕には家族も誰もいない。僕が死んだって誰も悲しまないのだ。
僕は死ぬべきなのかもしれない。
母を見捨て自分を選ぶようなやつだ。報いを受けるべきではないだろうか。
そうだ。僕は死ぬべきだ。
「ほら、早く」
彼女が僕の手を取ろうと手を近づける。
僕も彼女に答えるよう手を差し出す。
その瞬間彼女との間に閃光のような火花が散る。
それはとても美しく、暖かな火だった。
「ぐぁぁぁ!」
ポケットに入っている何かから、暖かさと光を感じ取り出す。そこにあったのは母の形見だった。
「何それ、」
「手製のお守り?母が作ってくれた?」
こちらは何も答えていないのに、彼女はまるで知っているかのように答える。
「ふーん、いいなぁー」
「愛されてるんだ」
そう彼女に言われると、視界ぼやけだす。
ついには完全に目の前が真っ黒になり、意識が朦朧とする。
「春来、どこだ、大丈夫か、」
「おーい、春来ーーー」
最後に遠くで僕のことを呼び探す2人の声が聞こえた。
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