ちくちくする春が、やさしくなる日。

 春が「嫌いだった」主人公が、自分自身と静かに向き合い、やさしいまなざしに救われていく。その過程がとても丁寧に描かれていて、読んでいるうちに自然と胸にじんわりとあたたかさが広がりました。語り口は飾り気がなく素直なのに、感情の揺れや陰影がしっかりと伝わってきて、思春期特有の痛みと、芽生えはじめた恋のあたたかさが、絶妙なバランスで心に残ります。かつて「ちくちく」と感じていた春服さえも、やがて優しい記憶に変わっていくようで——その変化に、そっと寄り添いたくなる作品です。

 読後は、静かな優しさとくすりと笑える愛しさに包まれて、春という季節をもう一度、大切に見つめたくなりました。

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