【悲報】チートなしの異世界配信者、リアルすぎて炎上する

ここる

第1配信 異世界転生、まさかの配信者

「——は?」


目を覚ますと、俺は見知らぬ森の中にいた。


さっきまで自宅のベッドで寝落ちしていたはずなのに、今は地面に転がっている。冷たい土の感触、ざらついた草の感触、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。


「……夢?」


寝ぼけたまま腕をつねるが、痛みは普通にある。寝ぼけてるわけでもなければ、VRの中にいるわけでもない。


俺は、現実としてこの場所にいる。


周囲を見回すと、巨大な木々が立ち並び、遠くには山脈のような地形が広がっていた。森の中らしいが、見覚えのある風景ではない。


「……マジで異世界転生?」


そんなはずはないと思いつつも、考えれば考えるほど状況が異常だ。

まず、最後に俺がしていたこと——確か、夜中にゲームの録画を確認して、そのまま寝落ちした。何もおかしなことはなかった。


事故に遭った記憶もないし、殺されたわけでもない。何の前触れもなく、突然異世界っぽい場所に飛ばされた。


まるで小説やアニメの異世界転生みたいな展開だ。


「……って、何か光ってね?」


目の前にふわふわと浮かぶ、青白い光のパネル。まるでホログラムみたいなそれは、俺の視線に合わせて動き、はっきりとした文字を映し出していた。



【異世界配信システム】

あなたはこの世界を「配信」することができます。

配信を通じて視聴者を増やし、コメントを受け取りながら生き延びてください。


「は?」


意味がわからない。


異世界転生しただけでも意味不明なのに、「配信」ってなんだ?

これはゲームのUIか何かか?いや、俺がVRの世界にいる可能性は……このリアルさを考えたら、ゼロだろう。


「配信開始……って、やってみるしかないよな」


ウィンドウの下部に、小さく【配信開始】のボタンが表示されている。

試しに触れてみると——


——ピコン!


どこからともなく電子音が響き、ウィンドウが切り替わった。


【現在の視聴者数:1】


画面の隅に、視聴者の数が表示される。


「え? 誰か見てんの?」


俺が呟いた瞬間、画面に小さなコメントが流れた。


[視聴者] なんだこれ?新しい配信?


「……え?」


心臓が跳ね上がる。マジで誰か見てるのか?


試しに周囲を確認したが、森の中に人影はない。だが、コメントが流れたということは——


これ、本当に配信されてる?


「……えーっと、みなさんこんにちは? なんか異世界に飛ばされて、配信者になった天城 蓮(あまぎ れん)です」


[視聴者] いや、どういう設定?

[視聴者] これリアル系の新しい配信?


視聴者のコメントを見て、確信する。


俺の視点がリアルタイムで「配信」されている。


「まじかよ……」


試しに近くの木に手を触れ、その感触を確かめる。少しざらついた幹。微かに湿っていて、ちゃんと生きている木の感触がする。


俺は慎重に折れる枝を探し、目の前でポキッと折ってみた。


[視聴者] うわ、ガチじゃん

[視聴者] すげえ、本物の異世界みたい


「やっぱり、これガチなんだよな……」


これは「異世界の中で配信ができる」のではなく、「異世界そのものを配信している」ってことだ。


だとしたら、この配信を見ているのは現実世界の人間ってことになる。


「俺、帰れるのか?」


いや、それよりも——


「これ、どうやって生き延びればいいんだ?」


俺は深呼吸し、一歩を踏み出した。


——まさか、ここから地獄が始まるとは思いもしなかった。


(第1配信 完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る