準備
「ん?どうした?」
ヴィンはツルマイの港へ行く途中、道の駅で茶を飲んでいるときにスレイに尋ねた。スレイは空を見ながら考えていたが、ふとツルマイの港から向こうの世界へ行くことはできるのかと尋ねた。この地では追われるが、対岸の国では追われずに済むのではないかと。
「なるほどなあ。でもこっちと同じことになるぞ。人の気持ちを変えろということだ」
「変わらん」
「師匠は法律を変えることなんて気にもしてない。法律を変えるときは人が替わらなければならないんだ」
「あの師匠は苦手だ」
「いい人だよ。もし君に理があるなら世界を敵にしても戦ってくれる」
スレイはカップを店に戻した。そんなことしたこともないのにと吐き捨てた。ツルマイが近づいてきて緊張が増しているようだ。
「うん。実際したことはないね。でもするような気がするんだ。召喚獣のための国もあながち冗談じゃない気もする」
ヴィンは弟子に地図を広げた。昨夜アスタクから教えられたことを話した。
「この隣の港は今は捨てられてる。ここを自治区にする気でいるらしい。アスタクてのは僕に仮の情報を流すような奴じゃない」
馬にまたがると、
「クロノスに法律を変えさせる。さもなければおまえらは戦争だと脅してる。君のためにだ」
「なぜそこまで?」
「僕は君を帰すのは違うと思う」
スレイも馬にまたがった。
手綱で静めた。
「師匠が言うから?」
並んで歩きはじめた。
師匠は言うが、強制はしない。いつも誰かのためになるのかを求めてくる。弟子になる前から失敗は多いが、叱られたことはない。
「でもこんな港を街にできるのかな」
「できるさ。僕の姉さんはこういうことを仕事にしてるんだ。他にもしてるけど」
「他?」
戦争のときは傭兵を集める。ここしばらく小さないざこざはあるが、戦争と呼べるものはないので、今さら傭兵業もしないようだが。
「商船も管理してるからね」
「船も?」
「でかいぞ。僕は好きになれないけどね。ところでナイフの効果は出てるようだね」
スレイは腹に付けたナイフの革鞘に手で触れてみた。重いし、美しいし、こんな高そうなものは持ったことがないので緊張する。
「すぐに慣れるよ。もしおカネができたら装飾してもらえばいい。お洒落になる」
「でもちゃんと払うわよ」
「そうしてくれ。僕もお金もちでもない。君がこの地で普通に暮らせるようににればな」
「お師匠様はずっと一人で暮らしてるの?」
「そうだね」
ダルツ殺しのせいだ。
濃い影を落としていた。
あれはヴィンたちこの世界のものが何とかできたはずなのに、彼に背負わせた。
「もしスレイは何をするんだ?」
「わたしは料理が好き。お店を持ちたい」
「いいね。港の見える丘のお店か。料理が好きなら今度作ってもらおうかな」
「自信ある」
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