学園治安隊 ~楽しい学園生活を夢見て転校したら、治安が最悪すぎて俺が取り締まることになった件~

朝食ダンゴ

第1章

第1話

 慣れない早起きをしたせいで、あくびが止まらない。

 それはともかく、白濱駿介しらはましゅんすけというのが俺の名前である。


 長いのか短いのか俺には全くわからない夏休みがいつに間にか終わり、待ちに待った新学期がやって来た。

 本来ならとことん暗澹たる気分に陥る時期なのだが、俺の心の中は七色に彩られた美しい花々で満ち溢れていた。何せ今日から新たな学園生活が始まるのだ。不安はあるが、それよりも期待の方が遥かに大きい。


 そんな俺を祝福してくれるかの様に、空には雲ひとつ無い青空が広がっている。

 よく考えてみれば今は九月であり、季節は秋に差し掛かろうとしているにも関わらずまだまだ暑いのはやはり否めない。そんな中、学園への道を歩くという行為は身体にはもちろん、精神にさえ多大なるダメージを与えるというものだ。


 ただでさえ残暑が厳しいというのに、何の因果かこの快晴だ。照りつける直射日光との相乗効果でさらに暑さが増している。それくらいでは今の俺のハッピーワクワクさん気分を崩すのは無理な事なんだがな。


 そんな由無し事を頭の片隅でボンヤリと考えているうちに、俺の目指す私立凪城第七学園が見えてきた。

 前にも試験で一度来たことはあるが、相変わらずデカイ。他の学校とはスケールが違う。歩くに連れどんどん巨大になっていく学園の校舎。同時に他の生徒達の姿がちらほらと見え始める。


 俺の服装は紺のブレザーに同色チェックのズボン、白いカッターシャツに銀灰色のネクタイをだらしなく締めている。何故このクソ暑い中ブレザーなんか羽織っているというと、始業式だから着ないといけないからだ。

 周りの生徒達は、普通の学生服やセーラー服、それに俺と同じブレザー、はたまた私服、挙げ句の果てにはランドセルを背負う団体さんまで居る。


 ゆっくりと、しかし確実に。なんて石ころみたいな言葉みたいに着々と校門が迫ってくるのが何気に嬉しい。

 俺が所在無さ気に足を動かしていると、誰かが校門のそばからこちらをジッと見ているのに気が付いた。制服から判断するに女子だろう。ここからでは距離があるため顔はよく見えないが、俺と同じ紺のブレザーを着ているのが分かる。挨拶くらいはしておいたほうがいいのかな。


 思いながら歩を進めていると、段々その女子生徒の姿がハッキリと見えてきた。そして、校門まであと十歩というところで、俺は足を止めた。その女子生徒の顔を見てしまったからだ。彼女にはそうさせるだけの力があった。


 正直に言わせてもらうぞ。

 接頭語として「美」という文字を三つ程つけたとしても、誰も文句は言わないであろう容姿の少女がそこにいた。

 まるで芸術品のように整った目鼻立ちと白い肌。長いまつげに縁取られたぱっちりとした大きな目に、柔らかそうな桃色の唇。腰の辺りまで伸びた艶やかな黒髪が、風に揺られさらさらと流れている。紺のブレザーを羽織り、白いブラウスにネクタイを締め、明らかに丈の短いプリーツスカートから黒いオーバーニーソックスに包まれたスラリとした脚を覗かせるその少女は、怪訝な面持ちでやはり俺を見つめて──否、睨んでいた。


 ネクタイの色が銀灰色だから俺と同じ一年生だろう。年相応の幼さの残る可愛らしい顔立ちをしているが、その中には凛々しさも感じられる。

 それはもう早起きの眠気など吹き飛ばしてしまうくらい。校門の前に一人堂々とたたずむ彼女は、眩しい朝の光の中でえも言われぬ輝きを放っていた。


 どれくらい時間が経っただろうか。そんな事すら分からなくなる程に、俺は彼女に眼を奪われていたようだ。

 まだ日の昇りきってない空の下、まるで時が止まったように俺と彼女は見つめ合う形となる。


 しかし、イキナリ顔面めがけて打たれたパンチに、俺は反射的にのけぞった。

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