第75話

さくらさんの声も震えていた。泣いているのかもしれない。


そう思ったら恥ずかしさなんて捨てて、涙に濡れた瞳のまま彼女を見下ろしていた。




やっぱり、彼女も泣いていた。


何度も目許を拭ったのだろう、濡れた掌をそっと優しく包み込む。


一瞬ビクッと肩を揺らしはしたけれど、そのまま体温を預けてくれた彼女に柔く微笑む。







「これからは、陽斗として側にいてもいい?」


「お願いします…!」







顔を真っ赤にしてそう口にしたさくらさん。


どうしようも無く抱き締めたい衝動に駆られたけれど、それはまだ我慢しておくことにした。







手を繋いで泣き腫らした目で微笑み合う俺たちの間を、暖かな春風がゆっくりと撫ぜていった――そんな麗らかな春のある日。








―END―

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