第12話
早百は、今里裏すは、に対してどうしても理性的な距離を保とうとしていた。
最初はただの後輩で、散歩部に入ってきた新しいメンバーとして接していた。しかし、気がつけばすはの明るさや無邪気さに、心の奥で「守りたい」という感情が芽生えていたのだ。
その感情に早百は動揺を隠せなかった。
どうしてこんな気持ちが湧いてくるのか、答えが見つからないまま日々が過ぎていった。
今里裏すは、はただ純粋に笑顔を見せる。その無邪気さに、早百はどんどん引き込まれていった。
今里裏すは、が何気ないことで幸せそうにしていると、早百の胸が苦しくなる。
でも、早百は心のどこかで、自分の気持ちに疑問を抱いていた。
「私はただの先輩だし、今里裏すは、にはまだ見えてないものがある。きっと、何も考えずにその笑顔を向けてくれるから、こんな風に思ってしまっているんだ。」
無意識に今里裏すは、を守りたい、支えたいという気持ちが強くなっていくが、それが友情の延長線なのか、それとも別の感情なのか、早百にはどうしてもわからなかった。
だからこそ、早百はその感情を無視し、できるだけ自分の中で閉じ込めようとした。
「すは、はただの仲間だ。仲良くしたいだけ……そうだよね?」
けれど、毎日、今里裏すは、が笑うたびにその疑問はますます深まっていった。
一方で、合亜はもっと素直に、今里裏すは、に対して惹かれていった。
彼女は早百よりもずっと感情に素直だった。
今里裏すは、の存在が、まるで温かい陽射しのように感じられ、無意識にその存在に包まれたくなった。
「すはちゃん……なんでこんなに可愛いんだろう。どんな時も明るくて、何もかもが愛おしい。」
合亜は、今里裏すはを守りたいというよりも、もっと「包み込みたい」という気持ちが強くなっていった。
何気ない日常の中で、今里裏すは、が笑顔を見せるたびに、心が温かくなる。しかし、それと同時に心の奥底で不安も生まれていた。
「私は……すはを守りたいと思っているのか、それとも……」
合亜の心の中では、いつも答えの出ない問いが渦巻いていた。しかし、彼女はその答えを出すことなく、今里裏すは、と過ごす時間が何より幸せだった。
今里裏すは、が笑っているだけで、合亜は安心するし、その姿がどうしても自分のものになってほしいと思ってしまう。
その気持ちというか、欲求を強く感じるようになった。
今里裏すは、は早百と合亜の気持ちを無邪気に受け止めていた。
彼女は、二人が自分を大切に思ってくれていることに気づいていたが、その感情に対してどうしていいかわからなかった。
彼女は、ただ楽しく過ごしたい、みんなと一緒にいられることが幸せだと感じているだけだった。
しかし、今里裏すは、もまた心の中で戸惑いを感じ始めていた。
「私は二人とも好き。だけど、選べない……。」
今里裏すは、は心の中でその気持ちを何度も繰り返していた。
何気なく言った一言が、いつの間にか深く心に残ることがある。
早百が少しだけ見せる寂しそうな表情、合亜が時折照れくさそうに笑う姿。それが、今里裏すは、にはどれもかけがえのない瞬間に感じられた。
でも、それが恋愛という感情だとは思っていなかった。
ただ、二人がいてくれて、どちらも大切な友達で、愛しい存在だと思っているだけだった。
「もし、私が二人の間で何か選ばなきゃいけないのなら、どうすればいいんだろう?」
今里裏すは、は自問自答を繰り返すが、答えは見つからない。
自分の中で、どんどん膨れ上がる感情に、どう向き合えばいいのかわからなかった。
時間が経つにつれ、三人の関係は少しずつ曖昧な形で深まっていった。
早百は気づいていた。自分の中に芽生えた守りたいという感情が、友達以上の感情になりつつあることに。
合亜もまた、今里裏すは、を包み込むような思いが強くなり、無意識に自分が抱きしめているような感覚に囚われていた。
「みんな、なんでこんなに私に優しいの?」
今里裏すは、は不思議に思ったことを口にした。
早百と合亜はお互いに目を合わせた。
「私たち、すはが大好きだからだよ。」
その言葉が、今里裏すは、の心に深く刺さった。
そして、三人の関係が恋と友情の狭間に揺れ動き始めた瞬間だった。
どちらも大切だと思う気持ちが、次第に強く、そして深くなっていく。
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