第12話「果てなき泥沼」

 2025年10月15日、アフリカとインドの調停が失敗に終わり、世界は泥沼と化した戦争に飲み込まれた。ユーラシア人民連合の猛攻と自由勢力の抵抗は拮抗し、戦線は膠着。日本は朝鮮統一帝国と、アメリカはソ連の遺志を継ぐ連合と、終わりの見えない戦いを続けていた。私はモスクワの廃墟に立ち、灰色の空の下で繰り広げられる果てなき闘争を見つめた。


 日本では、極道の司忍と空挺団が朝鮮統一帝国と対峙した。日本海を挟んだ戦いは苛烈を極め、連合の支援を受けた朝鮮のミサイルが北海道を焦土と化した。対する新生オウムの佐藤真理子は、EMP兵器で反撃しつつ、「我々の魂が尽きるまでは戦う」と誓った。しかし、朝鮮の金永進は冷笑し、「日本は我々の足元に跪く」と宣言。両軍は沿海州と対馬で激突し、血と鉄が海を赤く染めた。


 アメリカでは、ネイビーシールズのマイク・デービスとKKKが、連合の中国・モンゴル連合軍と死闘を繰り広げた。アラスカとシベリア東部を結ぶベーリング海峡が主戦場となり、連合のトゥヴァ部隊が氷原を進撃。エリザベス・ハドリーはレジスタンスを率いて迎え撃ったが、連合の核威嚇が影を落とし、シールズの潜水艦も次々と沈んだ。連合の李強は、「アメリカの自由など幻想だ」と哄笑し、戦線を押し込んだ。


 10月20日、泥沼はさらに深まった。日本海では極道の武装船が朝鮮の補給艦を襲うも、連合のドローン群に迎撃され全滅。空挺団が平壌への降下を試みたが、カザフスタンの対空砲に撃墜された。アメリカではKKKがアラスカでゲリラ戦を展開したが、モンゴルの騎馬軍に蹂躙され壊滅。シールズはシベリア沿岸で反攻を仕掛けたが、中国の空母打撃群に阻まれ撤退を余儀なくされた。


 両陣営とも疲弊し、兵士たちの目は虚ろだった。日本では、極道の若者が「死に場所が祖国なら本望だ」と呟き、空挺団の隊員が家族の写真を握り潰した。アメリカでは、KKKの戦士が「白人の誇りを守る」と叫びつつ息絶え、シールズの隊員が「仲間が死にすぎた」と涙を流した。連合側も同様で、トゥヴァの若者が喉歌を歌いながら倒れ、カザフスタンの騎手が馬と共に散った。


 10月25日、戦況は膠着したままだった。日本と朝鮮は互いに領土を奪い合うも、決定的な勝利は遠く、アメリカと連合もシベリアで消耗戦を続けた。補給線は伸びきり、食料と弾薬が底をついた。佐藤真理子は疲れ果てた声で、「これが自由の代償か」と呟き、エリザベスは「終わりが見えない」と嘆いた。李強もまた、「勝利は近いが遠い」と苛立ちを隠さなかった。


 11月1日、冬が戦場を覆った。日本海は氷に閉ざされ、アラスカは吹雪に埋もれた。戦闘は小規模な衝突に縮小したが、停戦の兆しはなかった。極道は闇の中で刀を研ぎ、空挺団は雪中で訓練を続けた。シールズは凍てつく海で潜行し、KKKは森に潜んだ。連合のモンゴル兵は馬を温め、中国軍はドローンを整備した。誰も退かず、誰も勝てなかった。


 私はモスクワの廃墟で、遠くの砲声を聞いた。泥沼は全てを飲み込み、日本対朝鮮、アメリカ対ソ連の戦いは果てしなく続いた。自由も赤い理想も、血と灰の中で埋もれ、終結の日は見えなかった。佐藤が呟いた言葉が耳に残った。「戦いは生きることだ。だが、生きることは戦いなのか?」


 泥沼と化した戦争は、集結する気配すら失っていた。

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