終末世界と歯車と

@566

第1話 日常の崩壊

貴方はは終末世界というのを御存知ですか?

人が一切居なくなってビルやら道路やらがボッコボコになっているアレです

一度は皆想像するアレです

御存知無い?…まぁ当然でしょう

そんなの漫画やゲームの話

たとえ何か起こったとしても大半は軍や警察がなんとかしてくれるでしょう

銃…戦車…ミサイル…

技術の発展と共に日々進化する現代兵器

これで倒せない生物なんて存在しないでしょう


自分もあの日まではそう考えていました


…ピピピピピピ

無機質なアラーム音が自室に響く

いつも通りの朝だ

窓から入り込む日の光が自分の夢を終わらせ現実世界に引きずり込む

「……う」

モゾモゾとスマホのアラームを止めようと手を伸ばす

しかし、その指先は空を切る

手をバタバタと動かしスマホを探る

……

見つからない

おや?と違和感を感じたのはその時だった

ヒンヤリとして固い…?

それが床である事を認識するのにしばらく時間がかかった

どうやらベッドから転げ落ちしてしまったらしい

ついていない…今日から三連休だというのに…

「うぅ……」

寝起きでダルく若干痛む体を起こす

二度寝してしまおうかと考えた時だった


……あれ?


私は見知らぬ部屋にいた

皆さんが真っ先に想像した白い部屋では無い

自分の部屋には無い匂いが鼻に触れる

本当に知らない誰かの部屋だ

「なに……ここ……?」

目をパチクリさせながら迷子になった幼子のようにあたりをキョロキョロ見回す

誘拐?拉致?人攫い?

そのような可能性が瞬時に頭に浮かんだ

……、え?

そして自分はすぐにそれを理解した

一瞬にして微睡みが消え去りゾゾゾとした嫌な感覚が身体に走った


何?ここはどこ?

誰の部屋?いやそもそもここは部屋か?

何あのぬいぐるみの量…業者なのか?

おおお落ち着け…落ち着くんだ…まずは今の状況を確認しなくては

いやでも何だこれは…誘拐?誘拐なのか?誘拐なのだな!?

パニックになり混乱が次々と現れる



冷静を取り戻すのにしばらく時間がかかった


その部屋を一言で表すなら異質だった


棚に並ぶ大小さまざまなぬいぐるみと小物

…に隠されている大量の刃物を刺された藁人形

甘く濃厚な苺のフルーティーな香り。

……の中にある腐った肉のような鼻を刺す異臭

後輩たちから贈られた寄せ書きの色紙

……を埋め尽くす、罵倒と悪意に満ちた言葉


そして――

私を中心として床に描かれた魔法陣ミステリーサークルらしきもの


パッも見可愛い女の子の部屋だがよくよく見ると中々にエグい部屋になっている

おぞましい物が滲み出ている気がしてゾワゾワとした感覚を覚えた

まるで怪物の腹の中にいるような居心地だった


絶対に知らない部屋だ

逆に知っていたらそいつと絶縁する

一体、どうしてここに……?

思い出そうと昨日の記憶を必死に掘り起こす

……………

………

『よし!!死体打ちだ死体打ち煽れ煽れ』

敵のボスが死んだ瞬間数十人がそれに群がりピョコピョコ跳ねる


…そうだ

昨日を思い出そうとして真っ先に浮かんだ出来事

私は昨日ネッ友とオンラインゲームをして遊んでいた


『バーカアホ間抜け』

『ねぇねぇ今どんな気持ち?ねぇねぇ』

チャット欄に現れるのは小学生以下のの暴言と知性の欠片も無い文字列

『おーいコイツの装備見つけたから目の前で焼こうぜー』

リーダーのALEPHさんがウッキウキで魔法剣を掲げた

『では私はそろそろ落ちます』

『お?今日は早いやん』

『今までが遅すぎただけですよ』


そうして電源を切りそしてそのまま吸い込まれるようにベットに入った

しかしその後………

……

あれ?……普通に寝たな

夜に何か買いに行ってトラックにひかれたり通り魔に刺された記憶が無い

何者かが部屋に押し入って誘拐された記憶もない


ふと、足もとを見る

読めとデカデカと筆で書かれた封筒ととドラマや映画で見る拳銃が置いてあった

「え……?なに……………ドッキリ?」

私は混乱していた

突然の誘拐?と明らかに異質な部屋と物達

そして一つの結論仮説たどり着いた逃げたのだ

これは誰かのドッキリ?イタズラであると

最近のドッキリは過激だから一般人を巻き込んだこういう物も有るだろう

そうか…ならば仕方が無い

自分を無理やり納得させようとした

「いや、なんで……?」

普通に無理だった


もしかしたらこれは何かの手違いで待っていれば帰してくれるかもしれない

ふとそう思い私はその場で待つ事にした

下手に動いて何かしても怖い

それにきっと誰かが来るに決まっている

たちの悪いドッキリでも何もしないと分かれば帰してくれるだろう

もっとリアクションして下さいよーと言いながらドッキリ大成功と書いたプラカードを持ってこの部屋に入ってくる

…いや普通に怖いな

まぁ良いか

そんな楽観的な考えに至った私は持ち前の能天気を取り戻しその場に寝転んだ

「三十分…いや十分後には誰か来るでしょう」

………

……



しかし

1時間待っても誰も来なかった

誰も来ないどころか物音一つもしない

本当に


…何かしなければいけないと言うことだろうか

…いや、来ないと言うことはそういう事か

ドアの先に何かあるのだろう

立ち上がり、ドアから外に出る

その時だった

「痛!!」

私はまるで何かに引っ張られたように転んだ

結構盛大に顔面から

なんなのさ…もう…

その言葉を放とうとした

しかし、ある物を見て一瞬で引っ込んだ


見るからに重そうな黒い鉄球

そこから伸びる鎖が、私の足首に繋がっていた

中世の奴隷が着けているような物がそこにあった


なぜ今まで気づかなかったのだろうか

自分の間抜けさを恨んだ

全身がゾワゾワとした嫌な感覚が包み込まれる

何かの事件に巻き込まれたのではないだろうか

恐ろしい何かがやって来たのではないだろうか

ふと湧いたその考えはだんだんと確信へと変わっていった

どうする……どうすれば……

ふと自分の足下をみると封筒があった

………

封筒を手に取って持ち上げる

心臓が若干早くなる

デカデカと書かれた読めの二文字が私を見つめる

……もしかしたらここにドッキリ大成功と書いてあるのではないか

いや、絶対にそうだ、そうでなければおかしい

残された希望にすがるように私は封筒の封を破く

べり、べり、べり

紙が破ける音が部屋に響く

その音がやたら長く感じた

やがて封筒から折りたたまれた1枚の紙が出てきた

心臓がさらに速くなる

検定試験の合否を確認する時のような気分だった


ここにドッキリ大成功と書いてあるんだ

そしてこの気色悪い部屋から脱出出来るんだ

……

「…よし、行くぞ……」

意を決して勢いよく広げる

勢いよすぎてビリッと音が聞こえたが私は何も知らない

そしてそれにはこう書いてあった


■■へ

まず今すぐここから逃げ■

足■や拘■具があるなら■を削■■でも脱■しろ

■■■が来る

とにかく■く

何も■える■


逃げろ


「これは……!!」

汚すぎて抽象画にも見える字

もはや読めない黒の塊

そこらについている飛び散った墨

私はこの筆跡を知っていた

あの人だと直ぐに名前が思い浮かんだ

そしてそれは私にこれから現れる危険を伝え助かる道を示していた

「なぁにこれ?」

私が内容を理解できれば

イヒけ…物?化け物?……何書いてんだこれ

𛁄才もげろ……えさいもげろ?何これ?

急いでいたのかいつもより汚い

……


はぁ…いつから私達のボスはこんな痛い事をする厨二病になったのだろうか

あの人今年で60超えるぞ

……なんか一気に緊張が消えた

いやでもこんな事するようなタイプだっけ……

いやでもあの人なら…まぁ…うん

……

………


…うーん、なんか

拍子抜けーー…






「……!?」

その時の私は油断していた

極度の緊張からのあの手紙で拍子抜けした

何だ、あの人のくだらない悪戯か

そう考えていた

しかし少し考えれば分かったはずだ

あの人が自分の住所や顔を知っているはずがない

ましてや誰にも気付かれず攫うなんてこと出来るはずがない

安心したくて分かりやすい結論に逃げていたのだ


床に描かれた赤い線の集合体魔法陣がドクンと脈動する

夕焼けの様な赤い輝きが放たれる

私がその事に気づいたのはその時だった

「…まずい」

本能的にそう感じ逃げようと走り出す

しかし足枷が邪魔をしてまたしても転ぶ


心臓がかつて無いほど速くなり息が速くなる



その一文字がすぐ間近まで迫っている

その事を直感的に理解した


空間が歪み膨張してゆく

ぬいぐるみに隠された人形がガタガタと震える

部屋の腐った肉の匂いが強くなる

何も無い所から悲鳴と笑い声が現れる


逃げなければ逃げなければ逃げなければ


鉄球が足を引っ張り進まない

それでも必死に進もうと身体を動かす


そして

パキン

コップを落として割った時のような音

歪んで球となった部屋の中央から

の腕が突き出た

「イィィィヤッハァァァイ!!」

続けて何かがそこから飛び出し

狂った笑い声の様な音が部屋に響き渡る


自分はそれをこの眼でハッキリと見た


それは、この世界の生物では無かった


所々でた青い肉と銀色の皮膚

頭部にある百を超える目

剥き出しになった心臓

喜びにも憎しみにもに似た不快な鳴き声

百人に聞いたら千人が化け物と答える異形

この世界に現れたソレは大きく息を吸い

「イヒヒィィィィ」

この世の物とは思え無い気色悪い笑みを浮かべ自分を見つめた

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