第8話 星空の屋上カフェ

夜風が心地よい初夏の夜。街の喧騒から少し離れたビルの屋上には、隠れ家的なカフェが広がっている。天井はなく、広がる星空が店内を包み込んでいる。キャンドルの柔らかな灯りが、テーブルごとに揺れていた。


「ようこそ、『ルナティカフェ』へ。」ウェイターの颯人(はやと)は、落ち着いた声で客を迎える。彼の整った顔立ちとさりげない気遣いが、女性客からも評判だ。今夜も多くの人が、日常を忘れにこの場所へ足を運んでいる。


カウンター席には、一人でワインを傾ける女性がいた。華やかなドレスが似合うが、その目には少し疲れがにじんでいる。「おひとりですか?」「ええ、今日は仕事帰りで…ちょっと息抜きです。」「お疲れさまです。よろしければ、おすすめのカクテルを作りましょうか?」「お願いします。…なんだか、空がきれいですね。」「そうですね。ここでは、星が近く感じられます。」颯人はシェイカーを軽やかに振りながら、ふと優しい声で続けた。「疲れた時こそ、空を見上げると心が軽くなりますよ。」


グラスに注がれたカクテルは、淡いブルーに煌めく。「『スターダストブルー』。一口飲むと、きっと心がほぐれます。」「きれい…飲むのがもったいないですね。」「大丈夫です。美しいものは、心に残りますから。」女性は微笑み、そっとカクテルに口をつけた。爽やかな甘さとわずかな苦味が、疲れた心に染み渡る。


「…少しだけ、楽になりました。」「それならよかったです。お客様が少しでも笑顔になれるのが、僕の役目ですから。」颯人の穏やかな言葉に、女性は自然と微笑んだ。


星空の下で流れる時間は、まるで夢のようにゆったりとしていた。颯人の存在が、まるでその空間の一部であるかのように馴染んでいる。「また来ますね。」「お待ちしております。次は、もっと特別なカクテルを用意しておきますよ。」女性が去り、颯人は片付けながらふと空を見上げた。一筋の流れ星が、夜空を駆け抜けていった。


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