俺が最強すぎて、街が地獄になった件〜正義は必ず勝つはずなのに、俺が勝ってもいいのだろうか~

朝食ダンゴ

プロローグ

第1話 表ヒロミチ閣下の迷惑

 表ヒロミチは中学三年生。受験を間近に控えた、忙しい時期の筈である。

 だが、ヒロミチは勉強していなかった。


「別に偏差値の低い高校でいいさ……」


 そう思っていたからだ。

 今の学力のまま楽々入れるところで十分だ。事実だが、なんともまぁやる気の無いこと。

 それでも本人がそれでいいと思っているのだから、それでいいのである。


 今の季節は冬。年明けからすぐの時節だった。

 ヒロミチは、友人の西山ショウタ、萩ユウキらと共に夜の町を閣歩していた。


 定期パトロールである。


 この三人は中学生であると同時に、県警特別措置課独立行動小隊『不良キラーズ』の隊員であった。

 彼等がこなす仕事はただひとつ、町行く悪人、不良どもを片っ端から制裁すること。例え現行犯でなくても、悪人であれば法を執行する。

 悪人とおぼしき人影を見付けたら、とりあえずチェーンソー片手に突っ込んで行くのである。


 それを傲慢と、あるいは暴虐と呼ぶ人々もいた。

 だが、そのおかげで街から悪人の姿は消え、治安は改善。住みよい街が作られた。


 その安息も束の間。今となって、強大な反抗勢力が立ち上がっていた。

 総長クワマンを頂点とする『レボリューショナル・バッドボーイズ』。


 『不良キラーズ』三人に対し、『レボリューショナル・バッドボーイズ』はおよそ五十。絶望的戦力差だ。

 だが、表ヒロミチはクワマンに言い放った。


「お前達のやっていることは、It's テロリズム」


 なんと勇敢な言葉か。まさに正義である。

 三と五十が対峙する中、闘いのゴングが夜の町に鳴った。


 『不良キラーズ』と『レボリューショナルバッドボーイズ』の抗争は激戦の模様を見せた。

 状況はヒロミチ達の圧倒的有利。チェーンソーを持つ『不良キラーズ』はやはり強かった。


 向かってくる不良を、容赦なくぶった切る。

 鬼のように!


「ははははははっ! 人をバラバラにするこの感触、たまらねぇぜ……!」


 バッサバッサと斬りまくり、いつの間にか敵はクワマンだけになっていた。

 周りには、原型を留めてない真っ赤な肉片が転がっている。


「いい加減諦めろ、クワマン」


「何?」


「お前の部下は全員死んだ、お前も同じ様になりたいのか?」


「勘違いだ。こんなザコ共を倒したぐらいでは、私には勝てないと思うのだが、どうかね?」


「クワマン。俺はお前を倒す」


「おはぇっはぁっはぃっはぅ! まあよい、やれば分かる。全員で来るがいい」




 今まさに、決戦の時は来ていた。


「うおぉぉぉぉあ!」


 萩ユウキがクワマンに突っ込んで行く。右手にはチェーンソー、左手にもチェーンソー。チェーンソー二刀流。

 この腕力こそ最強。


「死ね!」


 萩のチェーンソーがクワマンの腹に突き刺さる。

 しかし。


「な、なにぃ!?」


 クワマンの分厚い脂肪に阻まれ、刃が内臓に届かない。


「私の脂肪をナメないでほしいね!」


 そのままクワマンは萩の頭に拳を落とした。

 萩の頭はグシャグシャになり、その場に崩れ落ちる。


「やるな……!」


 西山ショウタがヒロミチに合図を送る。


(連携攻撃で行くぞ!)


(わかった、お前はとんこつより醤油が好きなのか)


 全く理解してないヒロミチだった。


「クワマン流すごい格闘術奥義、アートネイチャー!」


 クワマンが奥義を繰り出した。その体はみるみるうちに体毛で覆われていく。


「これは……」


「マジかよ……」


 クワマンは、まるで熊の様な風貌になった。


「毛むくじゃらだな」


「ああ、毛むくじゃらだ」


 クワマンは高く跳躍した。全力で跳躍した。

 そして、空を超え、宇宙を飛び抜け、太陽にぶつかって消滅した。


「やったな!」


「ああ、やった!」


「萩は犬死にだったな!」


「そうだな!」


 抗争は『不良キラーズ』の勝利に終わった。

 だが、物語は終わらない。


 ヤツが来るから……。

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