第14話 報告

 もと来た道を引き返して行くと、何故かあっという間にノームのおじいさんの所に辿り着いた。


「行きと帰りで距離が違うなんておかしくない?」 


 レオが納得のいかないような顔でブツブツ文句を言っている。


 まあ確かに、初めて行く場所なんかは行きはものすごく時間がかかるのに、戻る時は随分早く感じる事ってあるからね。


「なんじゃ。無事に帰って来たのか」


 ノームのおじいさんは僕達の姿を見るなり、聞き捨てならない言葉を放つ。


 それじゃまるで僕達があのドラゴンにどうかされると思っていたみたいだ。


 言葉の真意を問いただそうとするより先にノームのおじいさんはレオに視線を向ける。

 

「お前は何をブツブツ言っておるんじゃ。それで、あやつの問題は解決出来たのか?」


 レオはポケットからノームのおじいさんから預かった鱗を取り出した。


「はい。ドラゴンさんは生え変わりの鱗がなかなか取れないくて、岩に身体を擦り付けるから地震が起きると言っていました。僕が鱗を取ってあげたのでしばらくは大丈夫だそうです」 


 ノームのおじいさんは鱗を受け取ると、そのままズボンのポケットに押し込んでいる。


「生え変わりの鱗が取れない? そんな事で頻繁に地震を起こされちゃ敵わんな」


 ノームのおじいさんは忌々しそうに言うけれど、そもそも、ノームのおじいさんが手伝ってあげれば良かったんじゃないのかな? 


「以前は僕が手伝ってあげていたそうです。ノームのおじいさんは手伝ってあげたりはしないんですか?」


 僕がノームのおじいさんに聞くと、おじいさんは不可思議そうな顔を見せた。


「はああ? 何でわしがあのドラゴンの所まで行って、鱗を取るのを手伝ってやらねばならんのじゃ?」


「だって、最初に生え変わった鱗をもらったんでしょ?」


「あれはあやつがこの地下に住むからと言って、挨拶代わりに持ってきたものじゃ。あれっぽっちの鱗で居座られた上に地震まで起こされて…。わしの宝が置いてある部屋はあいつの起こす地震のせいで砂まみれじゃ」


 ブリブリと怒っているノームのおじいさんを見て、レオはポケットからドラゴンに貰った鱗を数枚取り出した。


「僕、ドラゴンさんから鱗を貰ってきたから、ノームのおじいさんに分けてあげるよ」


「お、おう」 


 いきなりレオから鱗を差し出されてノームのおじいさんは面食らっている。


「どうぞ」


 すぐには受け取らないおじいさんに、レオが再度鱗を差し出すと、おじいさんは渋々受け取ってポケットにしまった。


「地震の原因を取り除いたから、僕達を地上に返して欲しいんだけど…」


 僕がお願いすると、おじいさんは懐から緑の葉っぱを取り出した。


「これを持って歩いて行けば地上に出られるさ」


 僕はパタパタとおじいさんの所に飛んでいき、その葉っぱを受け取る。


 その葉っぱはつやつやとしていて、今まさに枝から採られたようなみずみずしさを持っている。


(こんな地下にいるのにどうしてこれほどのみずみずしさを保っているんだろう?)


 僕は疑問に思いながらもその葉っぱを持ってレオの所に飛んでいった。


「凄いや。こんな地中なのにどうしてこんなに綺麗な葉っぱなんだろう?」


 レオは僕が持っている葉っぱをしげしげと眺めている。


「ごちゃごちゃとうるさいのう。そんな事はどうでも良いから、それを持ってさっさと消えておくれ」


 ふん。とばかりにノームのおじいさんはそっぽを向く。


 そっぽを向きながらも、片方の目でこちらの様子をチラ見するなんて、本当は僕達に行ってほしくはないのかな?


 そうは思ったけれど、いつまでもここにいるわけにもいかない。


「ありがとう、ノームのおじいさん。また遊びに来るね」


 そう言うとノームのおじいさんは、パッとこちらを振り返って嬉しそうな顔をしたが、すぐにまたそっぽを向いた。


「ふ、ふん! 二度と来てほしくはないが、どうしてもお前が来たいと言うなら来ても構わんぞ!」


 やれやれ、素直じゃないな。


 僕とレオは、顔を見合わせてクスリと笑うと、おじいさんに手を振ってその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る