第12話 地下にいた者

 レオはノームのおじいさんに借りたランプを手に地下通路を歩く。


 僕はその横をフワフワと飛びながらついて行く。


「一体どれくらい歩けばこの鱗の持ち主に会えるのかな?」


 レオがポケットから黒光りする鱗を取り出してしげしげと眺める。


「さあね。だけど、それって魚の鱗だろ? もしかして地底湖とかあったりするのかな?」


 だけど、魚の鱗としてはかなり大きい方だろう。


 何しろレオの手のひらとほぼ同じくらいの大きさだ。


「一枚の鱗がこれだけ大きいって事はかなり大きな魚だよね。もしかしてクジラくらい大きな魚なのかな?」


「そんなに大きな魚だったら、僕なんか一飲みで飲み込まれそうだな」


 レオがブルリと身体を震わせながら呟くのを聞いて、僕は子供の頃に読んだ「ピノキオ」のお話を思い出した。


(ピノキオがクジラに飲み込まれたら、その中で先に飲み込まれていたゼペットじいさんに再会したんだっけ? 子供の頃は疑問に思わなかったけれど、今考えてみるとあり得ない話だよな。まあ、子供向けの話だから、何でもありなんだろうけど…)


 通路の中を飛びながら進んでいると、どうも坂道を降っているような感覚があった。


「ねぇ、レオ。この道下ってない?」


「だよね。僕もそう思ってたんだ」


 通路は大人二人が並んで歩けるくらいの広さがあったが、更に地下深く潜っているようだった。


 どこまでも続くかと思われたが、不意に大きな空間に出た。


「うわ、何だここ?」


 あまりに広すぎて小さなランプでは向こうの方まで光が届かない。


「誰だ?」


 突然声をかけられて、レオが声のした方へとランプを向けた。


「ド、ドラゴン!?」


 かろうじて見えたのは大きな黒いドラゴンだった。


(魚じゃなくてドラゴンの鱗だったのか? それにしては鱗の大きさが違うような…)


 レオが持っている鱗と、今目の前にいるドラゴンの鱗では大きさがかなり違うようだ。


「誰だと聞いている」


 再びドラゴンに問われ、レオは直立不動の体勢をとる。


「ぼ、僕はレオ。そして一緒にいるのはフィルです。あなたがこの鱗の持ち主ですか?」


 レオがポケットから鱗を取り出してドラゴンに見せると、ドラゴンはそれを一瞥した後、目を細めた。


「随分と懐かしい物を持ってるな。これは昔、最初に生え変わった鱗の一つだ。確かノームのじいさんが持っていったはずだが…」


「その、ノームのおじいさんから、『地震の原因はこの鱗の持ち主だから話を聞いてこい』って言われたんです」


 僕が説明すると、ドラゴンはじっと僕を見つめた後、ふんと鼻を鳴らした。


「まさかと思ったがやはりお前か、フィルバート。そんな小さな妖精になって、一体何の冗談なんだ?」


 ライトエルフの側近だった頃の名前を呼ばれて、僕はドキリとした。


(このドラゴンは僕の事を知っている? だったら僕もこのドラゴンの事を知っているはずなのに…。…思い出せない…)


 返事もせずに考え込む僕にドラゴンはズイと顔を寄せてきた。


「何故黙っている? 私に返事をする気もないという事か?」


 ここでドラゴンを怒らせて、レオに危害を加えられるわけにはいかない。


「ごめんなさい。僕はほんの少し前にこの小さな妖精に生まれ変わったばかりなんです。ライトエルフの王の側近だった事は思い出せたけれど、自分の名前は思い出せなくて…。フィルという名前もここにいるレオが付けてくれたんです。だからあなたの事も覚えていないんです」 


 必死にドラゴンに訴えかけると、ドラゴンは悲しそうな目で僕を見つめる。


「なんと…。お前と陛下がダークエルフの女王に害されたという噂は聞いていたが。上手く躱して逃げおおせただろうと思っていたが、転生していたとは? それで陛下はどうなった?」


「わかりません。ただ、こうして僕が転生したという事は、陛下も何処かに転生しているはずだから、ライトエルフの国に行ってみようと思って…」


「そうだな。お前達の絆の強さをみれば当然の事だな。ただ、お前に記憶がないという事は、陛下にも同じような事が起こっていると考えてられるな」


 そうドラゴンに言われて僕はハッとした。


(もしかしたら陛下も僕と同じように小さな妖精に生まれ変わっているかもしれない…) 


 だが、それでもやはり何かしらライトエルフの王だったという記憶くらいは残っているはずだ。


 そうなれば、やはり陛下もライトエルフの国を目指している可能性もある。


 やはりライトエルフの国に行く事は必要なのだろう。


「フィルバートの事情はわかった。今は私の事を思い出せなくても、いずれ思い出したら、会いに来てくれ。そういえば、ノームのじいさんに言われて来たんだったな」


 僕とレオはコクリと頷いて、ドラゴンの次の言葉を待った。

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