第2話 私の得意なもの
――薄暗い雲が太陽を覆いつくしている7月上旬。
私は丹精込めて作ったお弁当を今日も大好きな人に渡す。
彼は箸を取り出し、おかずをつまんで口に運ぶ。その一連行動のあとには春の日差しのような笑顔が生まれる。
それを見て胸をドキドキさせながら幸せに浸るけど……。
お弁当を渡したのは体重85キロの私じゃない。
いまとなっては、”影武者”を創りだしてしまった自分を後悔している。
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――遡ること2週間前。
秋の文化祭の役員決めで私が選出された。
後日、委員会会議に行くと、驚くことに入学直後から憧れている
2年生の彼は、スリム体型で着飾る必要がなく、輝かしい笑顔がまぶしくて自分には手が届かない人。
なぜなら私は、身長164センチ体重85キロのぽっちゃり体型だから。
遠くから眺めるのが現実的だった。
「1年4組の
ロの字に整列されている席。手汗をかいたまま自己紹介を終えると、パラパラと拍手を浴びる。
すると、向かいの座席に座っている髪の短い女子生徒が笑顔で身を乗り出す。
「へぇ〜、花咲さんって料理が趣味なんだ」
「はい! だからこんな体型になっちゃって」
苦笑いで頭をかくと、室内はドッと笑いが起こった。同時に張り詰めていた空気が和む。
太っていることはコンプレックスだ。しかし、あえて火の海に飛び込んだ理由は、こーゆーキャラだと予防線を張るため。
「花咲さんの手作りお菓子を食べてみたいな〜」
「私も、私も〜!」
「ホントですか? じゃあ、次回はクッキーでも焼いてきますね!」
「やったぁぁあ!」
私は3歳の頃から母親と台所へ立つことが多かった。料理人である父親の背中を見て育ったことも料理好きの要因に。
いまはバイオレットというニックネームで料理やお菓子をインスタに投稿している。フォロワーからの反応は上々だ。
――ところが、数日後。
インスタに投稿したある一枚の写真が、平坦な人生に波紋を呼んでしまう。
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