倭国篇三十一『出発前夜』

 横浜出陣前夜


 斎藤一さいとうはじめ山南敬助やまなみけいすけを呼び出した。

「どうした?はじめ、怖い顔して」

「言わずとも分かっていますよね?吸血鬼ヴァンパイアの事です。あるじである織田信長おだのぶながを殺せば、下僕しもべの山南さんも死ぬ。一体どういうつもりです?」

「そうだな……。嫌いなんだよ、ヴァンパイアが。私は二百八十年生き、色々な種を見てきた。人間はおろかだし時に残酷な生き物だ。しかし、良いところもある。一方、ヴァンパイアには無いんだよ、良いところが。そして何より人間の敵だ。居なくなった方が世のため人のためだ」

 山南敬助は斎藤一と目を合わせる事なく、冷たい星空を仰いだ。

「人間もヴァンパイアも同じです。どちらもしがある。人の為に動き、涙を流せる……そんな山南敬助ヴァンパイアは〖善〗でしかない。俺も総司そうじも山南さんを絶対に死なせません!獣人(感染者)が人間に戻る方法があるなら、ヴァンパイアにだってある筈。それを必ず見つけ出してみせますよ」

 斎藤一のあまりにも真っ直ぐな目に、山南敬助は涙をこらえた。


 二人が屯所に戻ると、会議の為全組長が集合していた。

「おー!何処へ行ってたんだよイッチ、様!」

「総司……お前を初めてのにしてやろうか?」

「ヒ、ヒィィイ!!すんませんした!!」

「がらしゃ?食事??まぁいいか。さて、皆集まったところで、明日の作戦をおさらいしておこう!」


 京都【留守番】

 二番隊『永倉新八』

 四番隊『松原忠司』

 七番隊『谷三十郎』


 横浜【一陣】

[近藤組]

 局長『近藤勇』

 一番隊『沖田総司』

 三番隊『斎藤一』

『武田物外和尚』


 横浜【二陣】

[土方組]

 副長『土方歳三』

 総長『山南敬助』

 六番隊『井上源三郎』

 九番隊『鈴木三樹三郎』


「我々新撰組はこの布陣を敷く!なお、尊王攘夷志士桂小五郎かつらこごろうらとは横浜駅で合流。簡単な打ち合わせをして決戦に備える!明日は朝早く出発だ、今日は早めに就寝し英気を養ってくれ!!では、解散!!」



「うー寒っ」

 気が付けば俺様はあの丘に来ていた。

 高木小十郎ちちうえの息子になった場所……

 高木時尾いもうとを攫われた場所……


 〖銀のさじ〗って何だ?

 古文書ティマイオスって何だ?

 破れたページに書かれていた

 暗号『おきた』とは何だ?

 俺様は一体何者なんだ?

 自分の事を何にも知らねぇじゃねぇか……

 暗号を思い出さなきゃ、時尾ときおが殺されるかもしれねぇってのに……


嗚呼ああ只々ただただ月が綺麗だ……」

 横浜で見る月も、こんなに綺麗なのかなぁ?


「隙だらけだぞ、ワン公」

「あれ?イッチ、こんな所へ何しに来た?」

「それは俺の台詞せりふだ。まぁ、敢えて言うなら……月を見に来た」

 イッチは俺様の隣に並ぶと、月を見上げた。

 その姿たるや、ため息が漏れる程絵になる『いい男』で、時尾が惚れたのも分からなくはねぇ。

「総司。恐らく、お前が頭を悩ませたところで思い出せるでは無いのだろう。俺達に出来る事は、異国人をぶっ倒して時尾を取り戻すだけだ。自分達の為に、そして国の為にも」

「ああ、そうだな」

「よし、屯所へ戻ろう。明日は長旅だ」


 イッチは……斎藤一は本当に強い男だ。時尾を攫われ、右腕が使えなくなっても弱音を見せねぇ。それどころか俺様の事を慰め、鼓舞こぶしてくれる。イッチがいれば、絶対に負けねぇ……負ける気がしねぇ!!


 屯所が近づくに連れ、玄関に人影が見えてきた。当然イッチも気付いている。

 刹那せつな!!

 ソイツは物凄い勢いで迫ってきた!!

 さ、殺気!!速い!!

「ドワァッ!!」

 油断した!!俺様は体当たりを喰らい突き飛ばされた。

「おきぃたぁぁ!!ワシというもんが有りながらとは不貞野郎め!!」

「モ、モツゥ!!夜遊びだ!?馬鹿言え、イッチと月見だ!な、イッ……って居ない!!あんにゃろぉ!!」


 その後、モツは山南さんに確保された。

 俺様も何とか、無事、床に着いた。


 そして、出発の朝……最悪の急報が届く。
















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