十二夜綺譚 〜干支が紡ぐ夢物語〜
Algo Lighter アルゴライター
第1話 (子)「星降る夜の約束」
1. 夜空に響く約束
「ねぇ、きら。星ってね、流れるときに願いごとを聞いてくれるんだよ。」
澄んだ夜空の下、幼い根津希星は隣に座る響音の横顔を見つめた。彼女の瞳は、星のようにきらきらと輝いていた。
「そうなの?」
「うん。だから、もし私が遠くに行っても、流れ星にお願いしたら会えるかもしれないね。」
響音がそう言ったのは、小学校の卒業が迫る頃だった。彼女の家族は突然、海外へ引っ越すことになり、二人の間には大きな距離が生まれることになった。
「……それって、絶対叶うの?」
希星は半信半疑で聞き返した。
「うん! だって、ネズミは昔、神様のところに一番にたどり着いたんだよ? ちっちゃくてすばしっこいけど、すごく賢くてね。だから、希星もちゃんと願えば、きっと叶うよ。」
幼い心に刻まれた約束。だが、それは彼女が旅立った瞬間、希星の中でぼやけてしまった。
2. 失われた願い
それから数年。
希星は高校生になっていたが、響音のことを思い出すことはほとんどなくなっていた。最初は頻繁に手紙のやりとりをしていたが、次第に回数は減り、ついには途絶えてしまった。
「あの約束、忘れてるんじゃないか……?」
そんな疑念が心をよぎるたび、希星はそれを振り払った。きっと、お互いに忙しくなっただけだと。
だが、どこかで薄々気づいていた。自分の心のどこかで、あの夜の約束を信じることをやめてしまっていたことに。
「流れ星に願いをかけると叶う?」
そんなの、子どもじみた幻想にすぎない——。
3. 星が降る夜
冬のある夜。
希星は塾帰りに、ふと夜空を見上げた。吐く息は白く、街の喧騒から少し離れた公園のベンチに腰を下ろす。
「流れ星か……。」
幼い頃の思い出が、不意に心をよぎる。
彼女が最後に残した言葉。
「もし私が遠くに行っても、流れ星にお願いしたら会えるかもしれないね。」
「……まさか。」
そんなことを考えていると、空に一筋の光が走った。
希星の胸が、高鳴った。
(試してみるだけなら……。)
「……もし、もし響音が今も覚えているなら——。」
希星は願った。幼い頃と同じように、流れ星に向かって。
(もう一度、会いたい。)
4. 再会
願いをかけた瞬間、ポケットの中のスマホが震えた。
「え……?」
画面を開くと、見慣れない番号からのメッセージ。
『今、日本にいるの。ねぇ、まだ流れ星にお願い、してくれてる?』
心臓が跳ねるような感覚がした。
「まさか……。」
信じられない気持ちで、震える指で返信を打つ。
『今、した。』
数秒後、返信が届く。
『やっぱりね。私も今、流れ星を見たんだ。きらと同じ空の下で。』
胸が、熱くなる。
「おいおい……本当に叶っちゃうのかよ……。」
希星は空を仰いだ。
そこには、彼がかつて信じられなくなったはずの奇跡が、確かに輝いていた。
5. ふたりの約束
後日、希星は駅前で響音と再会した。
彼女は昔と変わらない笑顔で、少しだけ大人びた雰囲気をまとっていた。
「ねぇ、きら。ちゃんと願ってくれたんだね。」
「……信じてなかったんだけどな。」
「でしょ? でも、叶っちゃったね。」
響音は楽しそうに笑う。その姿を見ながら、希星は思う。
(……きっと、ネズミが神様のもとに一番にたどり着いたのは、ただ足が速かったからじゃない。信じる心があったから——。)
「じゃあ、次の願いも一緒にしよっか?」
「え?」
「次は……また、ずっと一緒にいられるように。」
響音が、流れる星を指差す。
今度はもう、迷うことはなかった。
希星はそっと目を閉じて——ふたりで、願った。
エンディング
願いは、ただ待つだけじゃ叶わない。
でも、信じる心があれば——
たとえ遠く離れていても、きっと星はつないでくれる。
夜空に降る流星に、ふたりの願いがそっと溶けていった。
——これは、小さな奇跡が起こる夜の物語。
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