第5話
第4話
「呪いの代償とその恩恵」
ミラフィレス城、地下
代々の女王にしか受け継がれないその秘密が眠っている。
【オオオオオォォォ-】
叫びとも、悲鳴とも見間違うその声。
魔法陣の中に鎖で繋がれた高さ2メートルはある巨大な水晶の中にその暗い影は閉じ込められている。
「ごきげんよう、時間神【クロノフィア】様。」
とセレイスが魔法陣の外でお辞儀をする。
そう、これは呪いであり、恩恵でもある契約だった。
先々代の女王により呪われた国、国外に出ることは適わない民。
だが、その裏には大きな恩恵がある。
「・・・時間神よ、願いを聞き届けたまえ。哀れなる魂をお救いください。」
と水晶に向けるのは箱に入った人間の心臓。
先日亡くなった「ティルシア・アーマイト・ラフォンネル」のモノだ。
光と共に箱から離れた心臓はその形を人のモノへと変えていく。
・・・光が収まったとき、そこにいるのは鎧を着た髑髏の兵士だ。
「まぁ、失敗してしまったのね。受肉できないなんて可哀想なティルシア。」
とてもガッカリしたと言わんばかりにセレイスは肩を落とした。
これは女王のみが行うことのできる「転生の儀式」と呼ばれる聖なるものだ。
死した民の魂は輪廻に行かず、時の神により肉体ごと転生させることができる秘術
だが、時折強い邪念を抱いているものを転生させるとこうして失敗作の意志のある髑髏へと変貌してしまうのだ。
「残念だけれど、我が国軍に貴方を加えることはできません。時間神よ。我が願いに応え、彼のモノを生贄として受け取り給え。」
そう告げると水晶から黒い手のような触手がいくつも出てくると鎧を着た髑髏を捕らえる
「ウオオオオオオオン」
髑髏の兵士が叫ぶ、何故だと言わんばかりの咆哮は手に持っている剣をかつての主人に振り下ろした。
しかし、それが彼女に届くことはなく。その姿は水晶の中へ吸い込まれていく。
「・・・・ティルシア。貴方の行い、すべて私は許しましょう。ですが、その水晶の中で貴方は永久の苦しみを味わいなさい。」
そして、この地下には他の死した民の遺体が幾人も運ばれている。
「今日も神に捧げましょう。哀れな魂の救済を行うのです。」
ミラフィレス城 皇女の自室
カリカリと机の上で手紙を書くのは第一皇女。アネイスト・ジョセフィルド・メイデント
青みがかった銀色の髪の毛を頭の上で結い、真剣な顔で机に向かっている。
「お姉さま?」
と声をかけるのは第二皇女のリレイヌ・ジョセフィルド・メイデント。
薄い金色の髪と栗色の瞳がじっと見つめている。
「レーヌ、ちょっとあっちで遊んでて。」
と追い払おうとするもリレイヌは頬をふくらませて
「お姉さまはさっきからそればかり!もう一時間も一人遊びして飽きたのよ!!」
「今は大事なことをしてる最中なの、だから・・・・。」
姉妹喧嘩が始まろうとしているとコンコンとノックの音が聞こえる
「はい、どちら様?」
『アネイスト、リレイヌ。二人ともいるかい?』
と低めの声が聞こえる。兄のエレインだ。
「エレイン兄様!どうぞ!!」
と言うとハチミツ色の金色に近い肩まである髪を一部三つ編みにしている青年が入ってくる妹たちを青い瞳で見つめると微笑んで。
「アネイストは勉強熱心だね。」
「えっ、あ・・・はい。」
思わず手紙を隠してしまうアネイスト
「兄さま、お姉さまったらレーヌとちっとも遊んでくれないのよ?」
「おや、レーヌはそれでご機嫌斜めなのかな。よければ私が遊ぼうか。」
「ほんとう!?兄さまだいすき!」
「エレイン兄様、国境の戦線のお仕事があったのでは?」
エレインは第一皇子でありながら王国の皇位継承権を持たない。
故に、彼が就ける最大の立ち位置は王国騎士隊の総司令官だった。
そして、ここ最近はその司令として国境付近の総指揮をしながらだったので姉妹たちとも顔を合わせる機会が少なかったのだ。
「先日の国境線でこちらも手痛い損害を受けてしまってね。それを立ちなおすのにもう少し時間がかかるので総司令としての役目は今のところないのさ。
もっとも、国賊達側も疲弊しているようでしばらくは酷い戦いにはならないだろうと踏んでいる。」
「たくさん、なくなったの?」
「・・・そうだね。国賊とはいえ同じ民なのは違いない。とても残念だけれど・・・。」
「【転生の儀】があるのでは・・・?」
「たしかに転生の儀はきっとある、けれどそれには【選ばれた民】のみが受けることができる最大の恩恵だ。ティルシアのような国を想う心がなければ転生の儀は受けることはできないと私は聞いているよ。」
「・・・・そう、ですよね。」
「どうかしたのかい?アネイスト・・・顔色が悪いようだけど。」
「い、いえ。なんでもないんです!」
「ねぇ、兄さま。レーヌとあそんで。」
「わかったよ。天気がいいから庭園で遊ぼう。」
「うん!お姉さまも終わったらていえんにきてくださいな!」
「わかったわ。」
と二人を見送りアネイストは再び机に向かう。
「【転生の儀】・・・・次期女王の私すらお母さまからなにも教えられていないのに、どうして【イラウ・ドルチェーノ】が知っているの・・・?」
書いている手紙に隠れるようにしてイラウから転生の儀についての報告が書かれていた
【アネイスト皇女様へ
貴女から依頼されました【転生の儀】についてですがこちらで確認できた範囲のことをお伝えいたします。
転生の儀についてですが死した国民【全員】にかけられているだろうということが判明しております。私の調査によりますと、それらは一部が再び転生し一般的な国民と同じような生活をしているという報告があがっております。
しかし、一部というのは死した国民全員ではないのも報告されており、その他の国民の行方についてはまだわかっておりません。
ですが前述したとおり【全員】にかけられているという結論に至りましたのは少なくともセレイス陛下の代においては一度たりともラフォネル王国内で遺体を火葬されていないという結果からの推測にしかすぎません。これ以上は私どもも調査が行き詰っている関係にて大変心苦しくはございますが以上にて今回のご報告とさせていただきます。
イラウ・ドルチェーノ】
「・・・・お母さま、私にどうして教えてくださらないの・・・?」
そうアネイストが呟いても誰も答えてはくれなかった。
それは、世界の終焉に響く詩 上社玲衣 @jyua_kirakira
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