防御値カンストの最強ドM勇者はSMクラブの代わりに魔王城を利用する!~異世界特殊風俗レポート~

すちーぶんそん

勇者 山々田ロビン

 



「――今日こそ勝つんだ……」

 したたる汗をぬぐい、ぎゅっとつかを握りなおす。


 女魔王ウェルカヌスは、そんな俺を見下ろし呵々かかと笑った。

「ニンゲン風情が笑わせる! オマエは今ここで死ぬのだ。わらわのこの手にかかってなッ!!」


 スーパーきわどい服装と、その美貌。おれはゴクリ、と生唾を飲み込んだ。


「俺は絶対に負けない……。勝って、そして終わらせるんだッ!!」


 もちろん、終わらせる気などさらさらない。これはある種の儀式に似ている。

 大事な大事な二人の儀式。


「その意気だけは買ってやるぞニンゲン。だが、このムチを食らってまだ同じセリフが吐けるかや?」


「そ、それはまさかッ!!!」


「ウフフフ……。そうさ! そのまさかさッ!」


「あぁああ! もうお終いだ……。そのムチは俺に効く……」


「皮肉だねェ……。オマエがわらわをコロスために用意した武器で、今からジブンが死ぬのだから」


 アーーハッハッハッハ。

 城の広間に、女魔王の哄笑こうしょうがこだまする。 


「クソぉおッ!!! ……なんで前回あのズリンガムのムチを置き忘れたまま逃げてしまったんだッ!! 俺の馬鹿野郎ぉ……」


「ザマァないねッ! さぁ! 食らいなァッ! そら、そら、そら、そらァッ!!」


 あ、あ、アッーーーッ!!!


「これで終いだよッ!! 地獄嵐鞭打ブラッディーストームーーーーッ!!!!」


 逆巻さかまく風が、頬を、耳を、首を、腕を、胸を打ち抜き、痛みの花を散らす!


 あ、あぁあぁあぁあーーー!!



 ――突然、その一本が『俺の先端』をかすめた。



「ぅあ痛ぃーーーリーンッ!!!!」 



 ――アイリーン――



 忘れもしないあれは5年前――。

 

 突然異世界に放り出され、初めてくぐった冒険者ギルド。そこで、師となる男、ギルド長バーンと出会い、この世界での生活が始まった。

 あの頃の俺は、毎日泥水をすすり、ボロボロになりながら、それでも必死に鍛えていた。

 そして、その月の終わり、俺はD級冒険者駆け出しへとランクアップし、その祝いに連れていかれたあの酒場。草原の銀月亭。


 そこで出会った女の名こそ、『アイリーン』。

 

 俺の初めてを捧げた女性だ。


 彼女は献身的で、疲れを知らぬ太陽のような女だった。

 金の髪と豊かな胸。陶器のようななめらかな肌と、妖艶なほほ笑み。


 俺はよろこびに身をよじり、我を忘れてあえぎ、幾度となく果てた。  


 だが彼女は同時に嗜虐的しぎゃくてきで、情け容赦のない氷の女でもあった。

 淫奔いんぽんで苛烈。征服者は俺にまたがり、鋭い鞭を何度も何度も振るった。


 押し寄せる快感の波と、痛みという引き波。味わう全てが初めてで、交互に連なる二つの感情が体の奥を震わせ、思考を真っ白に染めた。 

 

 そして鞭、また鞭。


 俺は声を枯らして泣き叫び、アイリーンはそれを見て笑った。


 俺はただ必死に許しをい、アイリーンはわらいながら罰を重ねた。

 破壊、再生、破壊、再生そして破壊――。


 嵐の大海に浮かぶ小舟のように、浮かび沈みメチャクチャになり、



 そして、



 完全に、



 俺のMが目覚めた――。





 ◇◇



 はぁはぁはぁ。


「まだだッ!! ……まだ、……俺は、戦えるッ!!」


 束の間、意識が飛んでいた。なぜ今アイリーンの事など思い出すのだろう? 通り過ぎて行った女じゃないか。今はプレイに集中する時だ! ロビンよ! しっかりしろッ!!


「ニンゲンの癖にしぶといねぇッ!!」

 いら立つ女魔王ウェルカヌスが更に苛烈な攻撃を仕掛けてきた。


 あぁッ!! 


 音速超えた衝撃波を伴う鞭打を存分に浴び、レッドアウト直前だ! 吹き飛ばされた壁際、俺はよろめきながら立ち上がり、そこで更なる追撃を待つ。 


「俺は絶対に……、負けない……。勝って、そして終わらせるんだッ!!」

 

 お分かりの通り、俺にそんな気はさらさら無い。この発言は『テイ』。見立て、だ。

 

 だが、このイメージこそがプレイを『完璧』に近づける。


「あぁそんなに苦しみたいのならこれを食らうがいいさッ!!」

 

 キタ!!


「あぁ!! そ、そ、ソレはまさかッ――!!」


「オーッホッホッホ!」


 女魔王は胸を反らし、背後から新たな武器を取り出した。

 そして俺に見せつけるように、 

「そうさ! そのまさかさッ! 雷神の錫杖トールロッドだよッ!!」


「チクショーッ!! そんな物まで持っていたのか!? それは極雷ダンジョンの最下層のボスドロップ品じゃないかッ!!」


「あぁ、たまたま見つけたのさ!! ここに来る途中、城の廊下のすみでねぇッ!!」


「――よせッ!! それを俺に近づけないでくれッ!! それは俺に効く!!」


「さぁ! 食らいなァッ! そら、そら、そら、そらァ!!」


 あ、あ、アッーーーッ!!!


「これで終いだよッ!! 雷地獄無限大打擲ヘルズサンダーアタックーーーーッ!!!!」


 紫の電流が、頬を、耳を、首を、腕を、胸を打ち砕き、全身余すところなく痛みの花を散らす!



 あ、あぁあぁあぁあーーー!!


 当然、その一筋が『俺の先端』をかすめた――。



「ズェーーーッレノアッぅ!!!!」 




 ――エレノア――



 あの出会いは忘れもしない1年前。


 その頃すでに、俺は最強の座に手を掛けていた。

 勇者としての名声も得た。


 ただひたすらダンジョンに通い、そこで稼いだ金で世界中、ありとあらゆる風俗店に足を運んだ。東はナーリア諸島から西はバルム帝国まで、寝食を忘れて店に通いまくった。


 稼ぎ、通い、稼ぎ、通い、稼ぎ、通う日々。



 そしてある時気づいた。


『もうなんにも痛くない……。あぁ、強くなりすぎてしまった』 


 ジャンルも人種もプレイ内容も異なる黄金色の経験。そのよろこびの日々が俺を最強にしていた。


 そこに一切の努力無し。ただ日常を過ごすうちに、国士無双とよばれる防御力と、不感症の体、そしておびただしい病毒耐性を得てしまっていたのだ。



 もちろんその間も、その後も、何人もの女王様に出会った。


 だが、俺の中心に空いた穴は、ついに埋まらなかった。


 全てフェイク。しょせん仮初かりそめのごっこ遊びだった。



 日々鈍っていく感度。


「殺す気でやれ!」「もっと! もっとだァッ!!」


 支配人から出禁を食らった。


 世界中の武具を買いあさり、持ち込んだ。


「今日はこれを試してくれないか?」 


 嬢にはオリハルコン製のモーニングスターを持ち上げることはできなかった。


 そして、出禁にされた。


 西にセラピーあれば、行って治療を受け、東に良薬あれば行って買いあさった。

 だが、不感症は改善しなかった。


 いつしか客としての節度を忘れ、快楽を失い、すべてが色あせ、生きる意味について考える時間だけが増えていった。


 掴んだ手すりが飴細工のようにひしゃげ、洗面所で濡れた手を払ったら、水滴で壁に穴を穿うがつ、SS級の人外。


 日常生活もままならない、空っぽの人間もどき。



 俺は世界に拒絶されたのだ。

 



 ――そして人生に絶望していた俺が、最後に訪れたのが呪術師エレノアの館だった。


 史上最強デバッファー『エレノア』。


 傷心で過ごす日々に、たまたま届いたその噂。

 そんな人間いるわけがない、俺は半信半疑で足を運んだ。 



 だが彼女は本物の女神だった。


 彼女が俺を人間に戻してくれた!


 あの最高の半年間!!


 忘れもしない、再び訪れた黄金の日々。


 強力なデバフにより弱体化した俺の体に、『痛み』という夢にまでみた刺激が帰ってきたのだ!


 エレノアはただ微笑み、俺の対価を受け取った。そして術をほどこしてくれた。


 俺は有頂天だった。

 ものを知らない坊やだった。

 デバフが切れては金を積んで、エレノアに懇願した。そして店に通う。


 おかわり、おかわり、もう一杯を繰り返し、留まることを知らないその欲の果て。


 


 だがある日突然、

 


 訪れた夢の終わり。



 ――デバフ完全耐性習得。




 わずか半年間の人生の春と、その終わり。


 我が事ながら信じられなかった。取り乱し、泣き乱れ、店に駆け込んだ。



 豚と呼ばれたい英雄と、俺を唯一救ってくれるはずの女王様!!



 意を決して、「これを使ってくれないか?」と、インフィニテイーダンジョン最下層で得た『絶死のギロチン』を取り出した。


「準備してくる」そう言い残し、嬢はそのまま帰ってこなかった――。




 気づけば待合室のソファーに座り、俺は味のないタバコを吹かしていた。


 少し開いた窓の外、頭上からセミの鳴き声が聞こえた。


 夏の終わり、ただ一匹のセミの声。


 土の底から出遅れた一匹のオスが、女を求めて鳴いていた。


 もう世界に居ない『女』に向けてただ一人で叫んでいた。



「イブーーーー!!! おらぁアダムだぁーーー!! どこさいるーーー!? イブーーーーッ!! 返事してけれーーーーー!!」 


 夏が残したおびただしい数のイブの亡骸なきがらの上で、木にしがみつき泣くアダム



 ――あぁ、俺は蝉だ。


 長い長い暗黒を耐え、そして土からいでて得た短い生。

 だがそこに、俺を満たしてくれる存在はいない。


 あぁ、俺もアダムだ。


 楽園を追われ、イブを永遠に失ったアダムだ。


 俺の気持ちを真に理解できるのは、そのセミただ一人。



 あぁ、俺たちは、アダムスファミリーだ――。



 あと、その店も出禁にされた。



 ◇◇



 はぁはぁはぁ。


 つかの間、俺は泣いていた。過去の悲しい記憶にあてられ、そしてこの出会いの奇跡に震えて。


「まだだッ!! ……まだ、……俺は、戦えるッ!!」


「なぜまだ生きているッ!? わらわの攻撃が効いていないのか!?」


 はぁ、はぁ、はぁ。


「ワタクシメは絶対に……、貴方様なんかに、負けない……。勝って、そして終わらせるんだッ!!」


 ゾクゾク。


「勇者よ……、オマエなんか様子が……」


「さぁ!! 次は何ですか魔王様ッ!?」


 ガクガクと震える膝。次は堪え切れるのだろうか? まだもう少し、ここに居たい。

 満足するとぅーまっちには早すぎて、忘れちまうバイバイするには遅すぎる。

 どっぷりつかった欲望の深井戸。


「虫ケラ風情がッ!! そんなに死にたいなら死なせてやるわッ!!」


 待ってましたッ!!


「そ、それはまさかッ!!!」


「あぁ。そうさ! そのマサカさッ! わらわが編み出した最強の火炎魔法だよッ!!」


「あぁああ! もうお終いだ……。その魔法は俺に効く……」


「マサカこいつを使う事になるとはねぇ……。王国のの分際で少しはやるもんだ。だが、これで終わりだよッ!!!」


 凍てつく殺意の籠もった視線に、ゾクゾクと背中が歓喜する。


「ワンワンッ!! ワンワンワンワンッ!? ワーーン(クソぉおッ!!! ……俺はもうおしまいなのか!? 俺の犬野郎ぅ……)」


「オマエほんとになんか様子が……」


「クーーーンッ!! ワンワンワンワン!(負けない!! 俺はまだ戦うんだ!)」


 張り詰めた緊張を、なんとか前かがみになって耐え抜く!

 

 急いでください! もう、爆発寸前ですッ!!


「気味が悪い!! もう早く死になッ!!」


 女魔王の手の上で膨れ上がった炎塊が凝縮し、まばゆい光の唸りが一本の太柱となって襲って来た!!



 あ、あ、アッーーーッ!!!


「消えて無くなれッ!! 獄炎爆炎激グレートファイアオブメギドーーーーッ!!!!」


 逆巻く炎が、頬を、耳を、首を、腕を、胸を焼き尽くし、痛みの花を散らす!


 あ、あぁあぁあぁあーーー!!



 ――やっぱり、その炎の塊が『俺の先端』をかすめ――、なかった!



 俺は腰が抜けたを装って、尻もちを付き、女魔王に秘部をさらした!


 メリメリメリメリッ!!


「ワンッ(開門)!!ワン、ワアァンッ(いいから、今すぐ開門だッ)!!」


 ミチミチミチミチッ!!!!


 ヒョーーッ!! が尻の中でダンスしてやがるッ!!


 血管を駆け巡る激炎という名のキスが、俺に暖かなお布団をかけて――、




 エエエエエエエエェエクセレントッッ!!!! エンド、モアッ!!




 ここまで持ってこいッ!! ウェルカヌスッ!!

 

 ヒジまでぶち込めッ!! ウェルカヌスッ!!



 詰めかけた脳内応援団はメガホンを震わせ、オーディエンスは総勃ち!!


 降臨なさった救世主様を、凱旋門でお出迎えウェルカムだッ!!――。




「ウェーーーールカァムッスッ!!!!!」



 ――ウェルカヌス――





 女魔王ウェルカヌス。

 


 あれから――。


 空っぽだった俺。そんな俺の事情など知らず、国王からは毎日矢のような催促が来ていた。

『魔王を討伐せよ』 


 ほんとにどうでも良かったのだが、あまりのしつこさに根負けし、先日この城に来た。

 ちょっと覗いてすぐ帰るはずだったのだ。


 だが、


 魔王が女だと知ってしまった。



 ――そして出会った最高のひと


 俺は気づいてしまったのだ。 

『ここならいつでも無料で遊べる』と。


 完璧で申しぶんない痛み。加えて、嬢の持つすばらしい女王様精神。

 そりゃそうだ、相手は魔族の女王様。それすなわち、マゾにとっても女王様。

 以来、この店に通うこと今日で三顧の礼。

 そして願うはウイン、ウインの永久会員――。


 そういえば四天王を名乗るザコがいたのだが、プレイの最中にあれこれと口ウルサイから、来た時すぐに滅した。俺を差し置いて奴隷の立場を独占するなんてまことけしからんヤツらだった。

 今頃、次元回廊で彷徨さまよっているだろう。生きていれば……。



 ――束の間、夢を見ていた。




「ふぅ……」




 スキル賢者、発動。



 よし、……帰ろう。



 流した汗や涙、体液は、女魔王の炎で綺麗に乾いていた。


 はぁ、今日も最高だった。


「いやぁ……、ありがとうございましたぁ」


 俺はスクッと立ち上がり、財布からチップを取り出そうとして、ここがどこか思い出した。

 

 ヤバイッ!!

 




「今日の所はこのくらいにしといてやるぞ!! 魔王よ!!」


「……」



 夢から覚めたシンデレラは、ガラスの靴もかなぐり捨てて、三十六計逃げるにしかず!!



「さらばだッ!!」




 ◇◇



 ――魔王城のエントランスにて――



 俺は次元回廊を開き、手近な所にいた四天王の一人を引き出した。


 その、名も知らぬ魔族は、古い洗濯機のようにガタガタガタガタ震えていた。


 構わずマジックバッグから取り出した魔槍を託す。


「次に俺が来た時に、コイツを使いこなせるように、それとなく仕込んでおけ」


 先ほどの女王様の疑うような視線が、妙に気分をざわめかせる。


「首尾良く頼んだぞ? 逆らえば君がの中でしていた『後悔』が、プールの水遊びに感じるほどの絶望と恐怖を降らせるぞ?」 


 ソイツは無言で、ミシンのように肯いた。


「よし」


 そうだ、次回の予約もしておかねばならんな。


「それから……、そろそろ彼女との関係を、もう少し踏み込んだものへと進めたいと考えているんだがなぁ――」


 俺は更に注文を重ね、秘めたる思いを打ち明けたのだった。





 ◇◇



 ――三日後。


 

 特注の隷属の首輪エンゲージリングがついに手に入った! 

 満を持しての再会。


 今日こそ、お伝えするんだ。


 ずっと考えていた計画。


 名付けて、『世界は魔王様の物。そして、ワタクシも魔王様の所有物モノ計画』。



 ドキドキ。

 


「あれ? 今日はずいぶん静かだな……」


 何故かいつも来るはずの番兵が、エントランスに居なかった。


 はて……?


 

「あれ……なんだこれ?」


 扉に何か張り紙がある。





『引っ越しました。 




          魔王』





 また……、





 出禁かよ…………?






 ヌオオおおおぉぉぉぉ!!




完。





 

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