第2話:山中鳥撮り鳥さん待機ちゅー
一泊したホテルを出て。
祥子さんの車で、わたしが運転して。
朝食のため、ホテル近くの黄色い看板の定食屋さんへ。
「んー、朝定食はまだ始まってないかぁ、焼き魚定食にしようかな」
朝、早すぎて、朝定食の時間になっていない。
「わたしはこの牛焼肉定食にするわ」
「朝からがっつりですね」
「この後、山に登るし、体力必要よ?」
「じゃぁ、わたしも……こっちの豚焼肉定食にしよっかな」
牛より、少しはヘルシー?
食券を買って。
ふたり掛けの小さなテーブルに、着席。
向かい合って。
膝を突き合わせて。
もう、何度も、何度も。
同じように、一緒に食事をする事、数え切れず。
そんな朝食を軽く……じゃ、なくて、わりとがっつり食べ終えて。
「じゃあ、お昼ごはん仕入れにコンビニ行きましょうか」
今、朝食を食べたばかりだけど。
今度は、祥子さんの運転で、すぐ近くのコンビニへ。
おにぎり、サンドイッチ、デザート、お菓子、飲み物、などなど。
それに、保冷剤替わりの
一部、持参のクーラーボックスに突っ込んで。
いざ、目的地の、お山へ。
まだ薄暗い、日の出前の、山。
展望台の駐車場に、車を止めて。
必要最低限の機材を、背負ったり、担いだりして。
祥子さんと、ふたり。
ハイキングコースの、山道へと入っていく。
山を登る途中、山の向こう、東の空が、明るくなって来る。
「ここら辺ですね」
「ええ、そこから降りてみましょう」
山道の途中、脇道のように、坂を下る場所があって。
そこを降りて行くと、小川……沢へと出る。
その沢沿いに、辺りを確認しながら、歩いてゆく。
「あの枝あたりかしら?」
祥子さんの指差す場所。
沢の上にぴょこん、と、張り出した樹の枝。
「そうですね、水位もだいぶ低いし、ちょうどいい感じですね」
「水浴び、来てくれるかしら……」
「来てくれると、いいです、ね……」
そう。
本日の、お目当て。
夏鳥さんたちの、水浴び、水飲み。
春の平野部でも、短いながら一定の期間、見れる鳥さんが。
夏の間は、涼しいお山に移動。
わたしたちも、その鳥さんたちを追って、その夏の山へと訪れ。
夏休みを利用しての、二泊三日の、行軍。
鳥撮りツアー。
撮影旅行。
祥子さんと、ふたり。
ふたりきり。
目的の場所に、機材、荷物を降ろして。
三脚を立てて、カメラをセット。
カメラと三脚の間には日傘を取り付けるアダプタも取り付けて、小さめの日傘もセット。
折り畳み式の、小型のレジャー
どっしりと、文字通り、腰を据えて。
鳥さんを撮るために、鳥さんを探して歩き回る方法もあるけれど。
鳥さんがやってくるのを待ち受ける方法も、ある。
今回は、じっくりと。
山の中、沢のほとりとは言え、そこそこ暑い。
この暑さの中、重い機材を抱えて歩き回るのは、体力的にもしんどいし。
下手をして、熱中症なんかで倒れでもしたら大変だし。
山道から沢へ降りて、木陰にはいれば、比較的、涼しくて。
それに。
「ここなら人目にもつかないし、イチャイチャし放題、ね」
「んもー、撮るか、イチャイチャするか、どっちかにして下さいね」
「鳥来るの待ってるの、ヒマだもん」
そりゃまあ、そうなんですけどね。
ひっきりなしに、鳥さんがやって来る、なんて事も無いので。
「だから、いつ鳥さんが来てもすぐ反応できるように集中しなくちゃ、ですよ」
「うぅ、
ほんとに、もう。
年甲斐もなく、って言ったら、スネられそうなので、言わないけど。
お歳のわりに、子供みたいに、可愛らしいんだから。
年下のわたしの方が、なんか保護欲を感じてしまう。
そんな、彼女。
祥子さんと、こんなにも仲良くなったのは。
あれは、一年ほど前、だっけ?
とか、ぼんよりと、考えてたらば。
「あっ! 何か来たわ!」
「え?」
っと、集中してなかったのは、わたしかっ!?
どれ!?
祥子さんがカメラを向けた方を確認。
あれかっ!?
お目当ての場所から少し離れてはいるけど。
ちょこちょこと、動く、小さな鳥さんの、影。
オレンジと黒と白の、あれは……。
「ヤマガラですね」
「ええ、ヤマガラね」
女ふたり。
祥子さんと、わたし。
並んで。
仲良く、ヤマガラさん、撮影。
お目当ての、オオルリさん、キビタキさん、それに、サンコウチョウさん。
まぁ、サンコウチョウさんの水浴びとか、観れたら超ラッキーだけど。
そうは問屋が。
オオルリさんの水浴び以外、めぼしい鳥さんは、現れず。
時刻はまだ、午前中なんだけど。
朝ごはんの時間がすごく早かったのもあって。
「お腹空いてきたわね。そろそろご飯にしよっか」
「はーい、わたしも。準備しますね」
沢のほとり、鳥さん待機しながら、これまたふたり仲良く、お昼ごはん。
その沢の水中に浸しておいたクーラーボックスを回収して。
コンビニで買った食料を、取り出す。
「はい、こっち祥子さんの」
「ありがと」
それぞれのレジ袋を取り分けて。
がさがさ。
これまた、ふたり仲良く並んで、一緒にお食事。
もぐもぐ。
ごくごく。
ぷはぁ。
「しっかし、何も来ませんねぇ……場所、変えますか?」
思った以上に、鳥さんが、居らっしゃらず。
「うーん、こっちには鳥の女神様が居らっしゃるし、もうちょっと待ってみましょう」
女神様って。
誰ですかね?
わたしか!?
「そうですね。下手に動き回って体力使いすぎるのもマズいですね」
山中、森の中、沢のほとりとはいえ。
真夏の日中に重い機材を抱えて歩き回るのは、得策では無い、か。
「あ。
え?
祥子さんが、わたしの方を向いて、突然。
わたしの後ろに、鳥さんが現れた?
かと、思ったら。
祥子さんは、カメラには手を伸ばさず。
替わりに、わたしの後頭部に手を回して。
近い近い。
祥子さんの顔が近付いて来て。
「ぺろっ」
ふぇっ!?
くちびるの、脇を、ぺろっと舐められて。
直後。
「ちゅっ」
くちびるそのものにも、あたたかく、やわらかな、感触。
「ごちそう、さま」
きゃああ。
「しょ、しょ、祥子さん!? いきなり何すんですかっ!?」
あたふた。
「くち元にツナマヨのマヨが付いてたから」
だからって。
「もぉ……」
恥ずかしい。
「誰かに見られたらどーすんですか」
「大丈夫よ、誰も居ないわ」
ふと、見上げると。
沢の上、樹々の間、ハイキングコースを歩く人の、足元が見える。
上半身や顔の方までは見えないから。
だ、大丈夫だと思いたい、けど!
そう、こんなにも仲良く。
仲良くなりすぎたのは。
あれは、今から一年くらい、前。
こんな、暑い暑い、真夏の。
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