バード・レディ~鳥撮りの乙女

なるるん

第0話:鳥撮りの乙女たちの朝は早く



 早朝。


 スマホのアラームの音で目を覚ます。


 二時。


 早朝じゃなくて、深夜か。


 電灯、点けっぱなしで寝落ちしちゃったみたい。


 明るい室内。


 ベッドの上。


 しょぼしょぼとしたまぶたを開ければ、うっすら。


 愛おしい女性ひとの笑顔が、文字通りに目と鼻の先。


「おはよう、永依夢エイム


 紡がれる、優しい声音こわね


「んぁ……おはようございます、祥子しょうこさん」


 カーテンの向こう、窓の外は、もちろん、まだ暗い。


「先にシャワー浴びていいです?」


 昨夜の営みのせいで、身体が少しべたついて、今となっては気持ち悪い……。


「なら、一緒に入る?」


 うぉおっと。


「ダメです」

「えー、なんで?」


 だって。


「は、恥ずかしいじゃないですか」

「あら、夕べはもぉっと恥ずかしい姿、見せてくれたのに?」


 ぎゃー。


「そ、それはソレ、これは、コレ、です! 違うんです! 心構えがっ!」


 ばさっと。


 シーツをはねのけて、上体を起こすと。


 ぎゃー。


 祥子さんの、肌。


 肌色、一色……。


 って、わたしもだったーっ。


 きゃぁ。


「覗いちゃダメですよ? 入って来ちゃダメですよ?」


 起き上がって、ベッドから降りて。


 ベッドの上、下、あちこちに散乱してしまっている衣服を、ぱぱっと回収。


 っと、これは祥子さんのショーツだ。


 わたしの、どこぉおおおお。


 あったあった。


 一通り回収して。


 祥子さんの衣服も一か所にかためておいて。


 回収した自分の衣服を身体の前に持って、できるだけ素肌を隠して。


「ぜーったい、ダメですからね?」


 再度、クギを刺して。


 はや足で、バスルームに逃げ込んで。


 脱衣所に衣服を置いて、タオルを手に、浴室へ。


「はふぅ……」


 ホテルの空調のおかげで、流れた汗そのものは乾いているけど。


 ねっとりと肌にまとわりつく感覚が残ってる。


 汗と言わず、と言わず。


 さっと、身体にシャワーをかけた後。


 ボディソープとタオルで、身体中から、そのまとわりつく物を、拭って。


 しっかりと洗い流したいところだけど。


 そんなにもゆっくりしている時間は、ないから。


 さらっと。


 ソープをシャワーで流して。


 固く絞ったタオルで、身体に残る水滴を拭ってから。


 脱衣所へ戻って、乾いたタオルで残りの水分を、拭いきって。


 ショーツ、ブラジャー、それに、キャミソールまで再装備して。


「祥子さーん、次、オッケーですよー」


 脱衣所から顔だけ出して、ベッドに腰掛けている祥子さんに声をかければ。


「はーい」


 衣服は小脇に抱えた格好で、こちらにやってくる。


「ちょ、祥子さん、見えてる見えてる、隠して隠して」

「えー、別にいいじゃない。永依夢エイムに見られても全然問題無いわよ?」

「ダメですダメです、恥じらい、忘れちゃダメですよー」


 ほんと、もー。


 歳の差、歳の違い、なのかなぁ。


 単に性格の違いかもしれないけど。


 見かけによらず、ワイルドだなぁ、祥子さん……。


 うーむ。


 浴室に入っていく、祥子さん。


 扉を閉じる直前。


「覗いても、いいわよ?」

「覗きません!」


 んもーーっ。


 そんな感じで。


 すりガラスの向こう、シャワーを浴びる祥子さんのシルエット。


「っと!」


 それはなるべく見ないように、見ないように。


 少し湿った髪にドライヤーをあてて、乾かさないと。


 祥子さんのシャワーが終わる前に。


「なんだ、ほんとに来ないのね。背中流してもらおうと思ったのに」


 って。


 シャワーの途中で、また顔を出す祥子さん。


「何言ってんですか。日の出に間に合わなくなっちゃいますよ」


「あら? 背中流すだけならそんなに時間もかからないと思うわよ?」


「背中を流すで終われる自信はありますか? それはまた夜にでも!」


 直接、肌に触れたり、したら。


 その肌を、洗うために撫でまわしたり、したら。


 うん。


 わたしの方が、我慢できなくなっちゃう可能性が、が、が!


 ぷるぷる。


 祥子さんに、と、言うよりは、自分自身に向けて。


「今はダメですからね!」

「あはは、はーい、りょーかい」


 ぱたん。


 素直に扉を閉めて、シャワーに戻ってくれる。




 なんて。


 年上の女性ひとと、ふたり。


 昨日から、二泊三日の、遠征。


 撮影旅行。


 祥子さんの車で、ひとっ走り。


 昨日の朝、出発して、午後には撮影現場の下見をしてから、少しはやめにホテルに戻って。


 一泊。


 熱い一夜を、共に。


 夏なので、暑いのは暑い。


 でも、ホテルのお部屋は、空調が効いていて、そこまで暑くはない。


 そんな、快適なホテルで、熱い夜を過ごして。



 それから今日は、日の出前にその下見をした現場へと向かって。


 日の出にあわせて、鳥さん待ちの、予定。



 わたしが髪を乾かし終える頃、祥子さんもシャワーから出て。


「髪、やってくれる?」


 髪も洗っちゃったのかな?


「はーい」


 ベリーショートなので、乾かすのもそんなにかからないとは思うけど。


「って、その前に、最低限、下着だけでもけてください」


「はいはい」


 ぱぱっと、ブラとショーツを装着した祥子さんの後ろから。


 ドライヤーとタオルで、祥子さんの髪を乾かす。



 早いもので。


 祥子さんと知り合って、もう、二年。


 まさか。


 になっちゃうなんて。


 思いもよらず。


 考えもつかず。



 いや、はや。


 人生。


 何が起きるか、ホント、わかんないわよね。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る