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これは私が体験した、本当にあったお話です。


半年くらい前ですけど、バイト先の友人が私に「面白いものがあるよ」って言って、スマホを見せてきて。それで見せてもらったら、あの、某有名フリマアプリにですね、「幽霊の髪の毛」っていうのが出品されてたんです。


私、最初は冗談か何かだと思ってて、だってフリマアプリって、こういうネタというか、どうみてもゴミみたいな商品も普通に売られてるじゃないですか。

だから「別に珍しくもなくね」と思ってあんまり興味もなかったんですけど、よく見たらその幽霊の髪の毛、何気に落札されてるし、落札価格を見たら一万円ていう、すごい高値がついてるんですよ。

しかも似たようなのがこれ以外にもけっこう出品されてて、それがどれも落札されてるんですよね。


で、友人はそれを私に見せながら、「金のなる木、はっけーん。私も出品しよっかな?」とか言ってくるんで、いや、そもそもの話、幽霊の髪の毛ってなんなんだよと思って。

だって幽霊って、そもそも実在しないっていうか、脳の誤作動か錯覚じゃないですか。

それで私が「存在しないやつの髪の毛なんて、どっから入手してくるわけ?」って聞いたら、友人がその出品物のコメント欄を見せてくれて。


見たら「購入希望です。本物ですか?」みたいなコメントの返信に、「本物です。うちのアパートが事故物件で、ときどき風呂場に長い黒髪が落ちてるんです。当方短髪」とか書かれてて。

あー、怪談でたまにあるアレね、無から有を生み出す系のウソ話のやつ、と思って。


その時は私も友人も、「まあよく考えたら普通に詐欺だし、訴えられるリスク背負って一万円は安いよね」とか言って笑って、話はそこで終わったんですけど、私、お恥ずかしい話なんですが、実はまあまあ借金あるんですよね。

だからこんな美味しい話、やらない選択肢はないと思って。

帰って自分の髪の毛を何本か抜いて、幽霊の髪の毛ってことで、さっそく出品してみたんですよ。まあダメモトくらいの気持ちで。


で、値段はたしか、五万とかに設定したのかな。

他の人の出品を参考にして、それよりは少し本数を増やすけど、代わりにちょっと値段を上げるみたいな感じで。

相場より高いのは分かってたんですけど、その時ちょっとお金が必要だったんで。

まあ実際、その時は本当に売れるかどうか半信半疑だったし、正直あんまり期待もしてなくて。

でも、それがなんと出品して五分もしないうちに質問コメントが来て、「購入を検討しております。本物でしょうか?」って。


それで私、さっき友人に見せてもらった「うちは事故物件で云々」ていうコメントを参考にして、適当に話をでっちあげることにしたんですね。

「私は金髪なんで、黒髪が排水溝に絡まることはありえなくてー」とか、そういう感じで。

で、相手の返信をドキドキしながら待ってたら、これフリマアプリあるあるなんですけど、その返信が来る前に、別の人が横から無言で即購入して。

それであっさり取引成立ですよ。


ほんとに、嘘みたいにあっさり五万円作れちゃって。

最初は実感なかったけど、いやいや、秒で五万かよと思ったら、もう笑いが止まらないですよね。

発送は匿名だから、こっちの個人情報が相手にバレる心配はないし。

品物だって、それが本物か偽物か確認する方法なんて、相手にはないわけですから、どう考えても絶対にリスクなんてないと。

いやもう、「こんなに楽して稼げていいのかな?」って。


私はそれからも、週に二、三回くらいのペースで、幽霊の髪の毛を売り続けてたんですが、それがどれだけ出品しても即、売れるもんで、そうなったらもう、冗談抜きで本当に金のなる木ですよね。

だから私、完全に働くのが馬鹿らしくなっちゃって。

これなら遊んで暮らしながら借金も余裕よなって思って、バイトも速攻辞めて。一日中パチ屋に入り浸ってましたね。

でも、よかったのは実際そこまでで、こっからはまあ、本当にひどい話なんですよ。


で、一か月くらい前かな。私、その日も朝からスロ打ってたんですけど、昼前くらいに急に気分が悪くなってきて、スロット台の前に座ったまま、気を失って倒れちゃって。

ぼんやり覚えてるのは、最初はなんかちょっと頭クラクラするな、貧血かな、とか思ってたら、だんだん体に力が入らなくなってきて。

そしたら突然、頭を何かでガーンと殴られたみたいな衝撃があって。次に気がついたら、もう病院ですよ。


後から聞いたら、お店の人が救急車を呼んでくれたみたいで、私は近くの病院に運ばれてそのまま入院、ということになったんですが、そのときに検査をしたお医者さんが、なんか急に怖いことを言うんですよ。

「あなた、こんな状態で生きてるのは奇跡だよ」って。


それで「どういうことですか?」って聞いたら、なんか私の身体って、腎臓か肝臓? とにかくそういうマイナー寄りのメジャー系みたいな内臓が三つくらい、ほとんど動いてないらしくて。

でも、そのお医者さんは原因も分からないし、このままだったらもう本当に危ないから、このまま入院してちゃんと精密検査をしましょう、って。


でも私、貧乏あるあるなんですけど、当たり前のように保険証がないんですよね。

実費で入院するお金だって当然ないし、この時に言われたこともあんまりピンときてなかったから、とりあえずいったん「入院の準備してきます」って言って嘘ついて家に帰って。

あとはそれっきりで。

たぶん次行ったら「なんで来なかったの」って怒られるんで、周りの友人にも、私が倒れても救急車だけは絶対に呼ばないで、って念押しして。


で、それからは、いきなり倒れるとかはなかったんですけど、やっぱり私の身体って、本当にヤバかったみたいで。

私いま二十八なんですけど、私の体、この半年くらいでもう完全に老人なんですよ。

食欲はないし、髪の毛とか抜けてくるし、目も最近よく見えないし、肌もガサガサ。

だから会う人会う人みんなにびっくりされて、仕方ないから事情を話したら、「それ絶対なんかのタタリだよ! 霊能者の人紹介するから!」って言われて。

それで紹介されたのが、ある占い師の先生だったんです。


その先生は、私の周りのキャバ嬢の間でだけ異常に信頼されてる、「めちゃくちゃ当たるから他人には教えたくないし、有名にもなってほしくない」みたいなポジションの人で。

誰にも言わないことを条件に特別に紹介してもらったんで、詳しいことについては何も言えないんですけど、その先生が私を見て、こう言ったんです。

「あなた、誰かに呪いをかけられてるよ。何か心当たりない?」って。


それで私、フリマアプリで自分の髪の毛を売った話をしたら、その先生が「あー、なるほどね。あなた、呪いをかけられたんじゃなくて、呪い返しにあったんだわ」って言って。

「呪い返しってどういうことなんですか?」って聞いたら、「あのねー、あなたが髪の毛を売った相手は、たぶん誰かに呪いをかけるための道具として、それを買ったのよ」って言うんですね。


その先生が言うには、私の髪の毛が使われたのは、たぶん「幽霊の髪の毛に籠ってる怨念をミサイルみたいに飛ばして、相手を殺す系の呪い」だったんじゃないか、って。

でも、その呪いに使われた髪の毛が幽霊のじゃなくて生きてる人間、つまり私のだったから、私の念が飛んで行っちゃって。

で、その呪いが失敗したことで、そのミサイルが呪いをかけた本人じゃなくて、私のほうに返ってきて、爆発したと。

だから今の私の状態っていうのは魂だけが先に消滅してて、もうこの世にはいないから、残ったこの体も近いうちに死ぬよ、って、そんなことを言うんですよ。


でも、それってよく考えたら変ですよね?

だって、魂がもうないんだったら、今こうやって考えたり喋ったりしてる私はいったい何なの、っていう話だし。

まあ、あれから別に何もないし、たぶん大丈夫だとは思うんですけど、生活を改めるいい機会にはなったよな、と思って。

最近はできるだけ長生きするように禁酒禁煙で、ご飯もたまにはサラダとか食べるようにしてますね。

こんな生活してますけど私、やっぱりまだ死にたくないんで。


お聞きいただき、ありがとうございました。

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