Story 4. やり直し

「奈月?」


幸都の見舞いに来た一生は、病室から離れたベンチに座っている奈月を見つけた。

声をかけられた彼女は、泣き顔で一生の方を見る。


「一生・・・」

「どうしたんだよ。あいつと何かあったのか?」


問われた奈月は俯き、小さく泣き出す。

隣に腰かけた一生は彼女の肩を抱き、反対の手で頭を撫でてやる。


「ほんっと世話が焼けるなお前等は。仲直り協力してやるから、今日はもう帰れ」

「一生・・・」


すがりつくように、腰にまわされる腕。


オレなら、そんな顔させないのにー。


そんな想いを押し殺し、抱きしめてやる。


こいつが求めてるのは、オレじゃない。


「送ってやろうか?」

「・・・ううん、大丈夫。ありがとう」



「あいつ、泣いてたぞ」


奈月を見送った後、病室に入るなり、一生は切り出した。


「何があった」

「・・・あいつ、僕が死ぬと、思ったみたいで・・・」

「そう思われて、腹が立った、ってか」


言い当てられた幸都はそっぽを向く。

一生は頭をかき、ため息をひとつ吐いた。


「あのなぁ、あいつだって、いつもいつも馬鹿みたいに笑えるわけじゃねぇぞ?あいつだって人間だ。不安だって感じる」

「それは・・・」

「それがお前のことなら、なおさら」


一生は幸都をまっすぐに見つめた。


「こんなことがあっても、あいつは明日も、また来るだろうよ」

「明日・・・」

「素直に謝っちまえ。んでさっさと仲直りしろ」

「・・・うん」

「よっしゃ!」

「わっ、よせよ!」


一生が幸都の頭をぐしゃぐしゃに撫でると、彼は嫌そうに身を捩った。


不器用なこいつ等の世話係も、悪くない。


そう思った一生は、後に悲劇が自分達を襲うこと等、知る由もなかった。



次の日、朝。


「嘘、でしょ・・・」


奈月は、スマホを手にし、茫然として呟いた。

先程、一生から、


“幸都の容態が急変し、昏睡状態に陥った”


と、連絡が入ったのだ。

面会謝絶とのことなので、病院に行くわけにもいかない。


「私の、せいだ」


自分が彼を信じていれば、事態は少しでもよくなっていたかもしれない。

馬鹿げているかもしれないが、奈月はそう思わずにはいられなかった。


「助けてあげましょうか」


不意に、自分以外の声が響き、奈月は肩を跳ねさせた。

ここは私の部屋だ。

なのに、なぜ?

声は背後から聞こえた。

恐る恐る、その方向へ振り向くと、青い簡素なワンピースを身に着けた少女が立っていた。


「あなた、何?」

「誰、とは言わないのね」


くすり、と少女はおかしそうに笑う。


「ここは私の部屋よ。どこから入ってきたの?それに、”助けてあげようか?“って・・・」

「私はベアトリーチェ。『時空・空間の魔女』よ」

「魔女?」


奈月は訝しげに眉を寄せた。


「そう。魔法使い、ともいうわね。私なら、あなたの大切な人を助けることができるかもしれない」

「・・・何が目的なの」

「ないわよ、そんなの」

「ない?」


目を丸くする奈月を、ベアトリーチェはまたおかしそうに、しかしどこか優しさのこもったまなざしで見つめる。


「あなたの彼を想う純粋さに惹かれた。それだけよ」

「・・・どうすれば、助けられるの」


疑わしげに、奈月は尋ねた。


「彼の病を、あなたに移す」

「病を、移す?」

「そう。彼の病、彼の運命と、あなたの運命を入れ替えるの。けれど、代償がある」

「代償?」

「あなたの場合は、そうね・・・彼と、幼馴染から、あなたの存在が忘れ去られるわ」

「そんな・・・!」


大好きな幸都と、幼馴染で親友の一生が、自分のことを忘れてしまう。

二人とは幼い頃から、ずっと一緒にいた。

そんなの、耐えられるわけがないーでも。


それで、幸都が助かる、ならー。


「どうする?」

「・・・わかった」

「・・・本当に、いいのね」

「うん」


私は、耐えてみせる。


「それでは、『竹下幸都』と、『有間奈月』の運命を、振り返る」


だから、あなたは進んで、幸都。

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