まゆみさんは45回転

中島トビオ

第1話

「ピンクレディーって私と同い年なんだよね」

「え? ミーちゃん、ケイちゃん、どっちが?」

「あの二人、同い年だよ」

「ミーちゃん、ケイちゃん、マユちゃん。まるでキャンディーズじゃん」

「解散したばっかだよ、キャンディーズ。第一、何で私がピンクレディーに入って三人組になるのよ」

「いや、似合うかなと思って」

「何が?」

「いや……」

「スケベ!」

「いや、そうじゃなくて。ほら、今日来た新譜のシングル盤」

「あ、これ。『モンスター』?」

「じゃなくて、こっちの、えっと『サザン』なんとかの」

「ああ、『サザンオールスターズ』の……『勝手にシンドバッド』ね」

「そうそう。これって、ピンクレディーの『渚のシンドバッド』とジュリーの『勝手にしやがれ』をくっ付けたタイトルなんだよね」

「だから?」

「いや、それだけなんだけど」

「この曲は知らないけど、このバンド、多分、学祭で見た事あるよ」

「へ~~」

「メンバーとか同じかどうか分からないけどね。演奏はともかく、ボーカルがすごい個性的で覚えてるよ」

「えっと……チラシだと、青学の軽音楽部だったみたいだね」

「青学か……」

「あ、何か古傷に触れちゃったかな」

「古傷?」

「いや、別れたボーイフレンドが青学だったとか」

「くだらない。もう帰ったら。学校帰りなんでしょ」

「何だよ、やっぱ都合の悪いことが……」

「仕事の邪魔なのよ。新譜の入荷が多い日だし、ピンクレディーの新譜はあるし」

「二箱! スゴいね、箱単位で来るんだ、ピンクレディー」

「25日は他にも色々入荷してるんだから、邪魔邪魔」

「手伝おうか?」

「いいわよ。いざとなればオーナーいるんだし」

「オーナー? いるの、ホントに?」

「多分ね」

「見た事ないよ、俺がここに来るようになってから」

「まだ半年程度だと、目撃出来ないよ」

「何それ。まるで空飛ぶ円盤か幽霊か雪男」

「同じようなモンよ」

「ますます存在が危ぶまれてるね」

「いるよ、毎日問屋に発注かけてるのはオーナーなんだから」

「発注?」

「そ、私が前日に必要なレコードや注文をメモ書きして、それを翌日の朝にオーナーが問屋に注文してるのよ」

「まゆみさんが注文するレコードを決めてるの?」

「そうよ、知らなかった? このレコード店の売り上げは私の才覚で成り立ってるのよ」

「へ~~」

「尊敬の念が足りないね、さ、帰って帰って。今日は給料日だから、新譜目当てのお客さんも多いし」

「はいはい」

「……あ、いらっしゃいませ!」

「あの、ピンクレディーの……」

「あ、モンスターね、ちょうど入荷したところ」

「取れ立ての活きの良い、ピチピチしたのがありますよ!」

「もう、帰りなさいって!」

「は~~い」

「ゴメンね、このお兄ちゃん、アタマがおかしいから、気にしないで」

「……モンスター、なんですか?」

「あ、上手いね、それ。座布団三枚かな。じゃあ、座布団代わりに販促用のピンクレディーのチラシあげるよ」

「ありがとうございます!」

「礼儀正しいお嬢様ね。あんた、見習いなさい、モンスター!」

「ガオー!」

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