第3話
ひょいと抱き上げられて、反射的に暴れた。
びびってることを悟られたくなくて、どうして俺に興味を示してくるのかサッパリわからなくて、必死にもがいた。
「かわいいなぁ」
真っ黒なうえに薄汚れてて、おまけに全身の毛逆立ててるノラ猫のどこをどう見たらそういう感想が出てくるんだ。
「あー、おまえ男の子かぁ」
どっ、どこ見てんのマジで!?
ニギャーッニギャーッと奇声を上げて抵抗を示す俺をものともせず、ひたすら自分のペースで喋り続ける人間。
「ところで腹へってない?」
ニギャーッニギャーッニギャーッ……、え?
「俺んち来るか。ボロいけど、牛乳くらいあるし」
………えぇと。
「ツナ缶もあったかも」
まぁ…、行ってやらないことも、…ないけど?
大通りから少し離れた場所にあるそいつの家は、なるほど言葉どおりのボロだった。
アパートとは名ばかりの木で出来た全体像は一体いつの時代に建てられたのかと思うほど古く、周囲には雑草が伸び放題。
「アパートっていうか長屋な」
その腕に抱かれることを良しとせず、足下を付かず離れずといった感じで歩いてきた俺に、微笑が向けられる。
ガチャガチャと壊れそうな音を立てて鍵が開けられ、1人と1匹は暗い室内に入った。
曲がりなりにも人間の住処なのだから危険はないと思いたいが、油断大敵。警戒を怠ることは出来ない。
「黒猫くん」
小皿に入れた牛乳を俺の鼻先に差し出しながら、今度は苦笑している様子がうかがえた。
人間の笑いには色んな種類があるもんだ。
「確かにウチは貧乏だけどさ、そんなに尻尾立てまくるほど危ない場所でもないと思うよ」
……ん。それはそうかも。
せっかくご馳走してくれてるのに、信用してない態度をとってしまったことを少し反省する。
―――にゃー…
皿に舌をのばした瞬間、背中が温かくなった。
でも、もう避けない。
「俺は藤原基央。よろしくな」
よろしく、ねぇ。
…その手に持ってるツナ缶開けてくれるんだったら、考えてあげないこともないけど?
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