パート7: 二度目の遭遇と意図的な「吸収」
生き残るためには、この【吸収】というスキルを理解し、使いこなす必要がある。
俺は、さっきダンジョンクリーパーから得た断片的な情報を頼りに、比較的安全そうな場所へと移動を開始した。あの蟲の記憶によれば、この先のエリアには、もっと小型でおとなしい魔物が生息しているらしい。
(まずは、安全な相手で試してみるのが定石だよな……)
前世のゲーマーとしての知識が、こんなところで役立つとは思わなかった。
期待と、そして未知の能力を再び使うことへの不安が入り混じりながら、俺はゆっくりと、だが着実に洞窟の奥へと進んでいく。
しばらく進むと、開けた場所に出た。
そこには、緑色の粘菌のようなものが壁や地面に張り付いており、そして……いた。
俺と同じような、ゲル状の生物。ただし、俺よりもずっと小さく、色は濁った茶色をしていた。動きも鈍く、明らかに弱い存在だと分かる。
(スライム……の亜種か? それとも、ただのゲル状モンスターか?)
どちらにせよ、好都合だ。
こいつなら、さっきの蟲のような激しい抵抗もなく、【吸収】を試せるだろう。
俺は覚悟を決めた。生きるためだ。感傷に浸っている余裕はない。
ゆっくりと、だが確実に、その茶色い小型魔物に近づく。
相手はこちらの存在に気づいているのかいないのか、特に反応はない。
俺は小型魔物の目の前まで来ると、深く(スライムなりに)息を吸い込み、意識を集中した。
(【吸収】!)
心の中で念じると、さっきと同じように、俺の体が相手を包み込もうと動き出す。
小型魔物は一瞬だけビクンと震えたが、抵抗らしい抵抗は見せず、あっという間に俺の体の中に取り込まれ、溶けて消えていった。
『スキル【吸収】が発動しました。微量の魔力と情報を獲得しました』
また、あの無機質な感覚が頭の中に響く。
今度は、成功だ。意図的にスキルを発動させることができた。
小さな達成感と安堵感が込み上げてくる。これで、俺はこの世界で生き残るための手段を手に入れたのだ。
だが、同時に、別の感情も湧き上がってきた。
それは、生命を、たとえそれが弱い魔物であっても、一方的に取り込み、消滅させてしまったことへの、根源的な嫌悪感と、わずかな罪悪感だった。
さっきは必死だったから気づかなかったが、これは紛れもなく「捕食」行為だ。他者の命を糧にして、自分が生きる。
(……まあ、仕方ないか)
この世界は弱肉強食だ。俺がやらなければ、俺がやられるだけ。
綺麗事を言っていられる状況ではない。
俺は、湧き上がる不快感を無理やり心の奥底に押し込め、自分にそう言い聞かせた。
生きるためには、この力を使うしかないのだと。
複雑な思いを抱えながらも、俺は次の行動に移ることにした。この【吸収】で得られる情報をもっと集めなければならない。
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